この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百九十五話「ヒロコちゃん」

time 2017/02/23

第百九十五話「ヒロコちゃん」

 自分が担当するわけでもない店舗の視察となって、完全にヤル気が無くなった。昨晩は乱交パーティだったし、明け方にも勢い余ってミカの部屋で一発やったし、もう今の俺なんて絞りカスのようなものだ。とはいえ、道後温泉と言えば、日本有数の温泉街だから、とんでもない掘り出し物の女の子に出会えるかもしれない。

「いらっしゃいませ。どーぞ。」
「あ、はい。」
「お兄さん、うちは何回目ですかね?」
「いや、初めてです。」
「見たことがある顔やなと思ったけど。」
「すみません、初めてなんです。」
「かまん、かまん。」 

 地元のヤンキーがそのまま大人になってしまったようなオッサンが、やたら人懐っこく接客してくる。少し後退して額が広くなった頭髪をオールバックで整えて、唇の上の方にだけ濃いめのヒゲを蓄えた強面のオッサンなんだけど、口を開けば前歯が一本欠けていて、笑うと愛嬌がある。

「このサチコちゃんで、お願いします。」
「ごめんなさい。サっちゃんは今日、休んでるんよ。」
「そうなんですか。」
「ほやけん、この子を選んでよ。」
「あ、はい。じゃあ、この子で。」

 写真を見たところで、こういう店では実物は全くの別人が出てくるから、オッサンに勧められた通りに選んでおいた方が、たぶんそれなりの子に当たるはずだ。アルバムの写真を見る限りでは、一切の可能性を感じさせない小太りのヒロコちゃんだけど、おそらく実物の方が可愛いはずだ。

「ヒロコです。」
「あ、どうも。」

 うん、見事に写真通りの女の子が登場した。でも、こういうタイプの女の子だから、きっと容姿では他の子たちに敵わないということを自覚していて、技術力で勝負してくるはず。もしかしたら、とんでもないテクニックの持ち主かもしれない。

「お客さん、ダメですね。」
「うん、アカンな。」

 容姿がダメ、技術もダメ、だから俺の息子もダメやねん。あのオッサン、よりによって何でこんな子を勧めるねん。わけが分からんわ。

 隣の部屋からは、別の客についている女の子が大声で笑うのが聞こえて来て、せめて愛想のよさそうな女の子だったら良かったのにと、目の前で不満そうな顔をしながら服を着ているヒロコちゃんを見て、ため息が漏れた。

 道後温泉と言えば、ソープランドがまだトルコ風呂と呼ばれていた時代からの由緒ある歓楽街で、俺が学生だった時代には、ファッションヘルスなんて呼ばれるようなものは存在していなかった。俺がお世話になったのは、松山市内の三番町にあるピンサロとかチョンの間ばかりで、道後温泉で風俗遊びなんていうのは高嶺の花だった。

「めっちゃショボい店でした。」
「どんなんや。」
「昭和レトロというか、前時代的と言うか。」
「ほな、楽勝やな。」
「あれで商売が成り立ってるんですから、楽勝ですね。」
「良かったな、石川。」

 会長と俺が、「楽勝」とばかり繰り返し言っているのを、石川部長は苦い顔で見ていた。石川部長が行った店も同じく、大したことがなかったと会長に報告していたけど、自分が担当する新店について、あまり楽観的な予想をされると、たしかに憂鬱な気分になるかもしれない。でも、まぁ、ここは楽勝やわ。

 翌朝、道後温泉の歓楽街に隣接しているテナントビルの四階にある物件を、みんなで見に行った。朝早くに北海道から飛んできたクリちゃんも合流して、幹部全員で物件の設備や家賃などを確認してから、やはり「楽勝やろ。」と言いながら、一旦夕方まで解散になった。

「失礼します。ムッチーいますか?」
「むっ、あ、西村先生?」
「そうです。ミスター西村です。」
「ちょっと待っててよ。」

 西村先生というのは、俺の高校時代の英語の先生で、しかも三年間ずっと担任だった先生だ。ラグビー部の主将として部活動ばかり夢中になって、進学校にかかわらず勉強の方には全く関心を示さない俺に対して、真剣に進路などのアドバイスをしてくれていた。西村先生の授業は、かなり厳しいと評判だったけど、そのおかげで、俺が大学時代にアメリカに留学した時も、それなりに英語でコミュニケーションをとることが出来た。だから、先生には感謝している。

「西村先生、お久しぶりです。」
「おお、学年一の問題児の田附くんじゃないか!」
「いきなり酷い言い方やな。」
「お前、ファッション業界におるんだろ。」
「えっと。あの。」
「同級生たちが、男の憧れの職業やって言うてたわ。」
「先生、だいぶ誤解があるようなんですけど・・・。」


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