この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十八話「レッドポイント」

time 2016/08/19

第百四十八話「レッドポイント」

 カレンちゃんが「わたし、出勤の時間やから。」と言って、すぐに席を立とうとするのを引き留める。このままでは、俺が彼女を引き抜こうとしたことが全てバレてしまう。なんとか上手い具合にごまかせないだろうか。実際に会っているところを見られてるから、どんな言い訳をしても無理があるけど。

 もう心臓がバクバクと激しく脈を打っているのが、自分でもハッキリと分かる。あ、違う。胸ポケットに入れたケータイのバイブが鳴ってるだけや。

「もしもし、栗橋です。」
「おう、クリちゃん。」
「田附さん、もう勘弁してくださいよ。」
「え?何が?」
「いま、レッドポイントの女の子と、ドトールに居るでしょ?」
「うわ!なんで知ってんの?」
「先方から、電話が来たんですよ。」

 あ、そういえば、栗橋は以前、レッドポイントグループのヘルスで店長をやっていたのを、たまたま居酒屋で出会って、俺が引き抜いたんだった。うちのグループの専務になった今、あまり懇意には出来ないだろうけど、何人かとは今でも連絡を取り合っているという話は、前から聞いていた。

「向こうはもう、大変な騒ぎらしいですよ。」
「ヤバいな。」
「そりゃ、指名が月に二百本も入るようなレッドの大エースですよ。」
「だからこそ、欲しいねん。」
「そんなん言うてる場合と違うでしょ。」
「俺、どうしたらええかな?」
「とにかく、すぐに解散してください。」
「なんとか、ごまかさんと。」
「もうバレてますから、その必要ないです。」
「ええ、俺、殺されるかな。」
「殺されても仕方ないですよね。」
「クリちゃん、そんなこと言わんといてぇな。」

 即戦力として活かせる女の子を集める方法としては、他店からの引き抜きというのが最も効率が良いんだけど、栗橋の言う通り、さすがにやりすぎたかもしれん。俺、まだ死にたないわ。どないしよ。栗橋は「今回ばかりは何も手助け出来ません。」なんて冷たいことを言って、電話を切るし、最悪や。

 夜の出勤の女の子たちと話をするために、店に戻るつもりでいたけど、今日はそんな気分になれない。プリプリの前を素通りして、そのままブクープに向かう。タケちゃんやったら、きっと俺のことを慰めてくれるに違いない。もしかしたら、何か良いアイデアで、問題を解決してくれるかも。

「俺、謝りに行った方が、ええかな。」
「タズヤン、珍しく弱気やな。」
「そら、俺かてビビるで。」
「別に、お互い様なんやろ?」
「そやけど、大ごとになってるみたいやねん。」
「大ごと?」
「今回の一件で、幹部会議が開かれたみたい。」
「そういや喪服って、クリーニングに出してたかな。」
「縁起でもないこと、言わんといてや。」

 ただ店の女の子を引き抜こうとしたくらいで殺されたら、命が何個あっても足りない。みんな俺をからかって面白がっているけど、たぶん時間が解決してくれる。あちらのグループも、事が起こった直後だから騒ぎ立てているけど、しばらくすれば普段の業務が忙しくて、俺のことなんか忘れてしまうだろう。

「うちに来んといてくださいよ。」
「なんやねん、冷たいなぁ。石川店長。」
「店先で殺されたら嫌ですもん。」
「だから、そんなん無いって。」
「なんか向こうの会長さん、めっちゃ怒ってるらしいですよ。」
「え、それ、ほんまなん?」
「はい。」

 身重のサエコには心配をかけられないから、レッドポイント絡みの出来事に関しては何も話していないんだけど、たまに寝言で大声を出すから怖いと文句を言われた。これから第二子が産まれてくるというのに、ここで死ぬわけにはいかん。お父さん、頑張るからな。

 状況が落ち着くまで自宅待機しておいた方が良いと、栗橋からは言われているけど、ずっと家にいるとサエコが余計な詮索をしてくるから、居心地が悪い。だから結局、昼過ぎになると家を出て、店に出勤している。もちろん、表には出ず、オフィスに引きこもってるけど。

「店長!すみません!」
「な、なんや、どないした?」
「来客なんですけど・・・」
「だ、誰?」
「それが、レッドポイントの松山さんっていう・・・」
「おらんって言うて!」
「おるって言ってしまいま・・・」
「もう、前田、お前はホンマにもう。」

 太めのストライプのスーツを着た色黒の大男が、のっそりとオフィスに入ってきた。梅宮辰夫と松方弘樹を足して二で割らない感じの圧迫感のある絵に描いたような男前。ヒットマンって、こんな感じの人なんやな。うちの店には、外階段も裏口もないから、逃げ出すことも出来ない。でも、このまま何もしなければ、たぶん二秒、いや、間違いなく二秒で殺される。ああ、楽しい人生やったなぁ。

「田附店長さんですか?」
「はい、間違いありません。」


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