この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十七話「カナコ」

time 2016/08/18

第百四十七話「カナコ」

 三カ月と言われて、記憶を遡ってみても思い出せない。とはいえ、サエコが妊娠したということは、俺の子だ。倦怠期を迎えて久しく、数少なくなった夫婦の営みの一回が、見事に的中したらしい。カオルコがお姉ちゃんになるんやな。次は、男の子かな。でも、やっぱり女の子の方がかわいいから、ええなぁ。

「店長!ちょっと店長!」
「え、なに?」
「そんなに私の海綿をじっと見んといてよ。」
「あ、ごめん、ごめん。」

 店の女の子の海綿を抜き出しながら、我が子が産まれてくるシーンを思い浮かべていたら、なんか血まみれの海綿が愛らしく思えてきて、ぼんやりと眺めてしまっていた。二人目ともなると、新しく産まれてくる生命への不安のようなものは無くて、ただ純粋に嬉しいという感情だけが沸いてくる。男の子やったら、カズキが良いかな。女の子やったら、カナコがええかな。いや、カナコって何か微妙やな。

「店長!すみません店長!」
「なんやねん、吉田。うるさいな。」
「上、やばいです。」
「なに?上って。」
「ピチピチマダムですよ。」
「どないしたん?」
「あの店長、めっちゃ怖いです。」

 まだ開店までには、しばらく時間がかかるらしいけど、既にオープンのために男性スタッフを集めた鮫島さんは、このところ毎日、こっちに出勤して来ている。いったい何をやっているのだろうと思っていたけど、どうやら男性スタッフに接客指導をしているらしい。

「思いっきり殴ってましたよ。」
「鮫島さんが?」
「はい、そうですよ、鮫島店長が。」
「俺も、お前を殴ったろか。」
「やめてくださいよ。ほんまに怖いんですから。」

 まだ店も開いてないのに、ちょっと気合いが入りすぎてるんじゃないかとも思うけど、風俗の店長なんてものは、十人いれば十通りのやり方があるから、好きなようにやれば良い。それにしても、俺の前ではあんなに腰の低いひとが、部下を殴るとは、ちょっと信じられへんわ。よっぽどの事情があったんかな。

「やっぱり、あいつはヤバいんですって。」
「石川店長、なんでそう思うん?」
「部下を殴るやつに、まともな奴はおりませんから。」
「そうかもしれんけどな。」
「早めに追い出した方が良いと思いますよ。」
「追い出すって何やねん。」
「田附一派でピチピチグループを盛り上げましょう!」
「なんやそれ。そんな一派、知らんわ。」

 どこにでも政治的な動きが好きなやつって居るけど、俺は、こういうのはあまり好きじゃない。飲みの席では「俺たちは佐伯さんの直系やから頑張らんとアカンで!」みたいなことを冗談半分で言ったかも知れないけど、田附一派なんて名付けて、神輿のように担ぎ上げられるのは、まっぴら御免だ。

「じゃ、俺、店長会議で、会長に直言しますから!」
「好きにしたらええけど。」

 これだけハッキリと宣言したからには、何かしらの問題提起をするものだと思って、少しハラハラした気持ちでいたんだけど、一月の店長会議では何も起こらず、続く二月も何も起こらず、結局、三月になってピチピチマダムが開店した。おいおい、石川店長、いつになったら直言するつもりやねん。

 そんなことより、この数カ月、鮫島さんの動きを傍から観察していたんだけど、あのひと、めっちゃ凄いねん。オープンが近づいても、なかなか女の子の面接を始めないから、大丈夫かなと不安を感じていたけど、いざ開店となると、ずらりと女の子が揃っていた。しかも、人妻専門の看板に偽りなく、見事に人妻っぽい女の子ばかりを集めている。どこで見つけてきたのか分からんけど、ほんまに凄い。しかも、オープン初日には店先に行列が出来るんじゃないかという勢いで、お客さんが続々と来店した。これはもう、追い出すとか言ってる場合じゃない。頑張らんと、自分らの方が追い出されるかもしれん。

「カレンちゃん、どうかな?」
「えっと、でもぉ。」
「うちの方が、絶対に良いって。」
「でも、ひとりで決めるの怖いわ。」
「俺とふたりで決めよか。」
「それ、意味ないやんか。」
「絶対に、うちの方が稼げるから。」
「でも、レッドには、お世話になってるし。」

 黒髪のロングに大きな瞳、肉厚のある唇、スレンダーな身体と大きな胸、この子がレッドポイントグループの超スーパー絶対的エースのカレンちゃんだ。鮫島さんに触発された訳でもないけど、俺は俺の仕事を頑張らんとアカン。何としてもこの子を落としたい。カレンちゃんが来てくれれば、相当な数のお客様が、うちに流れて来るはずだ。

「あ、ウソ、やばい!」
「え?どないしたん?」
「あの窓際の紺のスーツの男のひと、あれ、レッドの系列のひと。」
「ええ、まじで?」
「さっき、私と目が合ってから、電話かけてる。」
「あかん、ヤバいな、これ。」
「うん、たぶん、かなりヤバい。」
「アカン、どないしよ。」


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