この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十六話「鮫島」

time 2016/08/17

第百四十六話「鮫島」

 年が明けて、門松が取れると、プリプリの三階と四階の工事が始まった。ピチピチマダムという人妻専門を謳ったファッションヘルスが、春先にはオープンの予定だ。新店の店長は、会長がどこかから連れてきた鮫島という俺のひとつ年上の男らしい。自分が可愛がっている部下の北澤を店長に推そうと企んでいたピチピチホームの石川店長は、たまにうちの店に遊びに来ては、愚痴をこぼしている。

「鮫島って、聞いたことないですよ。」
「俺も、知らんわ。」
「いきなり店長って、何なんですかね?」
「会長にも考えがあるんやろ。」
「そら、俺らが口出すことでも無いですけど。」
「まぁ、石川店長、そういうことやで。」

 本社にいるクリちゃんに聞いた話では、鮫島という男は元々、ピチピチグループのピンサロ部門で働いていたらしいけど、何年か前に店を辞めて、他所で働いていたそうだ。だから、ヘルス部門の俺とか石川店長とは全く接点がないから、どんな人物なのか知る由もない。

「もしもし、栗橋です。」
「おう、今ちょうど、石川店長が帰ったで。」
「あ、そうですか。」
「なんか鮫島新店長を敵視してたで。」
「石川さん、そういうとこ、ありますからね。」
「そうなんや。」
「田附さんのことも、最初は敵視してましたよ。」
「ほんまに?」
「内藤さんっていう共通の敵がいたから、良かったですね。」
「それ、良かったんかな?」
「あ、あの、この後、鮫島さんが店に行くそうです。」
「今から?」
「もうすぐ着くころと思います。」
「分かった。ちゃんと挨拶するわ。」
「はい、仲良くお願いしますね。」

 電話を切った瞬間、ノーネクタイでスーツ姿の大柄の男が、店内に入ってきた。デカいとは聞いていたけど、思ってた以上にデカい。まさに鮫島という名前に相応しい、眼孔の鋭い男だ。クリちゃんには申し訳ないけど、こんなやつと仲良くできる自信がないわ。

「あ、鮫島店長ですか?」
「はい、鮫島です。」
「田附です。」
「栗橋専務から、田附さんのことはお聞きしてます。」
「え、そうですか。」
「超敏腕の店長さんだと聞いております。」
「いやいや、超敏腕って。」
「是非、いろいろと勉強させてください!」

 あれ、めっちゃ良いやつやん。人は見た目に依らんし、名前にも依らんわ。石川店長にも、物腰が柔らかくて上下関係をわきまえている良いやつだと教えてあげないといけない。これから、なにかと顔を合わす機会も多いだろうし、嫌なやつじゃなくて良かった。

「ここが共通のエントランスになるんですね。」
「そう、外階段がないから、ちょっと不便やな。」
「ご迷惑をおかけすると思いますけど、よろしくお願いします。」
「いや、同じグループやし、問題ないで。」
「ありがとうございます!」

 たしかに、うちの店に入ってきたお客様に対して、「プリプリですか?マダムですか?」と確認する作業は、少し面倒かもしれない。でも、こんな使い勝手の悪い店舗で、初めてヘルスの店長を任される鮫島さんのことを思うと、俺たちも協力できることは全力で支援するつもりだ。

「田附店長、電話が鳴ってますよ。」
「え?俺の電話?」
「はい、どうぞお電話を優先してください。」
「あ、ごめんな。」

 ピンサロ出身と聞いて、世間知らずの野郎なんだろうと思っていたから、こういう細かな気遣いをされて、さらに気分が良くなる。ほんま、鮫島さん、ええ人やわ。携帯電話の液晶を見ると、サエコからの電話なので、別に急いで出る必要はないんだけど、せっかく気を使って貰ったから、とりあえず着信ボタンを押して、電話を耳に当てる。

「ご主人様!ご主人様!」
「なに、どないしたん?」
「重大な発表がありまして、電話しました!」
「だから、なによ?」
「ちょっとビックリやねんけど・・・」
「なに?早よ、言うてや。」
「三カ月だそうです。」
「え?えええ!ほんまに?」


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