この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十四話「入院」

time 2016/08/15

第百四十四話「入院」

 後頭部をスプレー缶で思いっきり殴られたらしい。俺のことを振り払って逃げようとした泥棒は、すぐに駆けつけた綜合警備保障の警備員らに取り押さえられ、後から来た警察官によって暴行容疑で現行犯逮捕された。現在、東山警察署で取り調べ中とのこと。

「十日間くらい入院らしいわ。」
「タズヤン、年末の忙しい時に、災難やな。」
「ほんまやで。」
「でも、百五十万が戻って来るんやろ?」
「いや、違うらしいねん。」
「なにが違うん?」
「あいつ、泥棒と違うかってん。」
「ええ、そうなんや!」

 俺が一生懸命にタックルして捕まえた男は、シャッターに落書きをするために来ただけで、空き巣に入った泥棒とは別人らしい。所持品は、赤と黒のスプレー缶二本だけで、泥棒が入った時間帯には、木屋町のキャバクラに居たというアリバイが立証されたようだ。

「ウッチーを恨んでたみたいやわ。」
「シャッターにも、内藤死ね!って書いてたもんな。」
「そうそう。」
「もう、内藤さん、おらんのにな。」
「ウッチーに酷い接客をされたらしいねん。」
「どんな接客したんやろな。」
「ストーカー野郎、もう来んな!って追い返したみたい。」
「無茶苦茶やな。」

 逮捕された男の名前は、木村義人。そう、たぶん、うちに頻繁にイタズラ電話を繰り返していたのが、こいつだ。わざわざ本名でイタズラ電話をしてきてたんだから、悪いヤツでは無さそう。

「タケちゃん、ほんま、ありがとうな。」
「困ったときは、お互い様やから。」
「あの時、タケちゃんがいてくれて良かった。」
「俺、なにもしてないで。」

 後頭部から血を流して救急車で搬送された俺に代わって、警察官への状況説明などをタケちゃんが全部やってくれたらしい。

 病院好きの俺だけど、さすがにこの時期に長々と入院させられるのは辛い。店の営業報告を聞いていると、すでに年末モードに突入した感じがする。数字だけ見ていても、本当のところは分からないから、早く現場に戻りたい。医者の先生の問診でも、「だいぶ良くなりました。」とか、「痛みも目まいもありません。」とか、良くなったアピールをして、一週間で退院させてもらった。

「店長、おかえりなさい!」
「おう、吉田、ただいま。」
「もう、大丈夫なんですか?」
「この時期に、休んでられへんやろ。」
「俺たちが頑張りますから!」

 マネージャーになったばかりの吉田と前田が、かなり頑張ってくれているのは分かる。俺がいなくても、何とか店が回っているのは、二人のおかげだ。実際のところ、接客業務に関しては、俺よりも表に出ていることが多い二人の方が、それぞれのお客様の趣味趣向を把握していて、上手に処理できている。でも、この世界は、それだけで済むほど甘くない。

 風俗業は、女の子に稼いでもらう商売だから、やっぱり女の子のケアが重要だ。この点では、ウッチーとセットだと思われていた吉田には、少し同情する。とはいえ、これくらいのことを乗り越えられなければ、吉田の力量が足りないと判断するしかない。

「ちょっと出掛けてくるわ。」
「はい、店長。どこまでですか?」
「ヘルス。」
「え?うちもヘルスですけど。」
「アホか、自分の店で遊んでどないすんねん!」
「まぁ、そうですけど。」
「レッドスポットやから、すぐ戻るわ。」
「めっちゃライバルグループですやん。」
「かわいい子がおるねん。」
「そうですか、楽しんできてください。」
「おう。」

 レッドスポットは、うちのピチピチグループと京都の風俗を二分しているグループなんだけど、最近、アイミちゃんという女の子が気に入っていて、何度か通っている。実は、あの事件の日の翌日、外で会う約束をしていたんだけど、俺が病院で意識不明だったから連絡も出来ず、申し訳ないことをしてしまった。入院中、このことが一番、気がかりやってん。

「アイミちゃん!」
「お客様、いらっしゃいませ。」
「そんな他人行儀な言い方やめてよ。」
「この店は、初めてですか?」
「もう、アイミちゃん。ごめんって。」
「謝られる筋合いないですけど。」
「ほんまごめんって。」
「ふん!知りません!」
「なぁ、アイミちゃん。」
「なんですか?」
「俺、殴られて、入院しててん!」
「はぁ?」
「ほら、ここ見てや。」
「うそぉ、タズヤン、大丈夫?」
「アイミちゃんの顔を見たら、元気になったわ。」
「え?いつまで入院してたん?」
「ついさっきまで。」
「ほんまに?」
「アイミちゃんとの約束を破って、ごめんな。」
「ええよ、そんなん言うてる場合ちゃうやん。」

 やっぱり、この子は、ええわぁ。可愛いし、優しいし、癒されるわ。アイミちゃん最高やん!


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