この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十三話「イタズラ」

time 2016/08/12

第百四十三話「イタズラ」

 年末に向けて、社員と女の子たち皆で協力しながら、出来ることは全てやろうと一致団結して頑張っているんだけど、そんな俺たちの思いに水を差すように、このところイタズラ電話が頻繁にかかってくる。無言電話のような軽微なものもあれば、長々と店のシステムの説明をさせられた挙句に「お前の店になんか誰が行くか、アホ!」と言われるような面倒なものまで、程度はさまざまだ。

「予約を受けたのに、来ないお客さんが増えてます。」
「週に、どれくらいあんの?」
「十件以上です。」
「それは多いな。」
「はい。」
「雨が降ったからとかと違うの?」
「たぶん、違うと思います。」
「なんで、そう思うの?」
「来なかったお客さんの名前、全員が木村なんで。」
「ほんまか!」
「はい。」
「もう、木村さんお断りの店にしよか。」
「それはアカンでしょ。」

 これまでに来店されたお客様の誰かが、女の子の接客態度に不満を感じて、このようなイタズラ行為を繰り返しているのではないかと考えて、女の子たちに思い当たる節がないか聞いてまわっているけど、これと言って、明らかな原因が見つからない。吉田は、同業他社からの嫌がらせに違いないと言うが、特に理由があるわけでもなく、ただ何となくそう思うという程度の推測でしかないようだ。

「ほんま、暇な奴がおるもんやで。」
「面倒くさいなぁ。」
「警察も何もしてくれへんし。」
「事件が起こらんと、何もしてくれへんわ。」
「そうやんな。」
「とりあえず、酒を飲んで気分転換してや。」
「そやな!なんか美味しいワインちょうだい!」

 ブクープで飲みながら、タケちゃんとか、他のお客さんとかに相談してみるけど、こういう類のイタズラ行為に対しては、なかなか有効な対抗手段がないらしい。うちの本社からも「犯人が分からんことには、何とも出来ない。」と言われているから、もう手詰まり状態だ。

「タズヤンの店が儲かってるから、妬みやろ。」
「妬まれるほど、儲かってないって。」
「でも、俺も、同業他社やと思うなぁ。」
「そうかな。」
「個人で毎日のように電話できへんで。」
「そうかもしれんけど。」

 年末、十二月に入る前には、なんとかこの問題を解決しないと、忙しい最中にイタズラ電話なんかの相手をしてられへん。明日は、できるかぎり俺が電話に出るようにして、犯人を特定するヒントを得よう。あ、携帯電話に着信が来た。知らない番号だ。いよいよ、俺の携帯電話の番号まで探し当てて、電話してきたんだろうか。

「もしもし、田附です。」
「プリティ&プリズムの田附さんですか?」
「はい、店長の田附ですが、なんの用件でしょうか。」
「総合警備保障のイワキと申します。」
「え、あ、はい。」
「ただいま、お店の警報を確認しました。」
「え?」
「田附さんは、ご不在ですか?」
「はい、近所にはいますけど。」
「分かりました。」
「はぁ。」
「ただいま、警備員二名が現場に向かっております。」

 ここから店までは、二分もかからずに辿り着けるから、すぐにでも飛んで帰ろうと思ったけど、何者かが店に侵入していた場合には、俺が襲われる危険性があるから、連絡するまでは店に近づかないようにと注意を受けた。しばらく経って、安全を確認したとの電話が入ったので、すぐに店に戻り、店内を見て回った。売り上げの一部を入れて置いてあった手提げ金庫が、なくなっていた。

「あかん、泥棒やん!」
「間違いないですか?」
「はい、この机の引き出しに入れて店を出ました。」
「分かりました。警察に通報します。」
「はい、お願いします。」

 駆けつけた警察官は、金庫の形状から、店の社員の数まで、様々なことを聞いて、一時間くらいで帰って行った。明日、俺が警察署に行って、いくつかの手続きをしなければならないらしい。警察官や警備員らを見送ってから、もう酒を飲むような気分でもないけど、カバンとかを置いたままだから、もう一度、ブクープに行く。

「タズヤン、ついてないなぁ。」
「ほんまやで。」
「いくらぐらい入ってたん。」
「百五十万ちょっと。」
「ほんまに!」
「そう。」
「俺の年収やん!」
「嘘つけ。タケちゃん、もっと稼いでるやん。」

 売り上げ金を盗まれたわけだから、明日、本社の経理部に連絡しなければならないんだけど、あの経理部にはウッチーがいる。領収書の整理くらいの仕事しか任されてないらしいけど、この一件は、間違いなくウッチーの耳に入るな。余計なことを言って、掻き回されないように注意せんとアカンわ。

「遅くまで、ごめんな。」
「ええよ、タズヤン。元気出しや。」
「わざわざ下まで送ってくれて、ありがとう。」
「ええって。気にせんといてや。」
「タケちゃんのおかげで、ちょっと元気になったわ。」
「あれ、タズヤン、あいつ何してるんやろ?」
「え、なになに?」

 タケちゃんが指をさしているのは、うちの店舗だ。言われてみれば、シャッターの降りた店先で、暗闇の中で何かが動いている。そうか、また、泥棒が戻ってきよったんやな。もう店の中には現金は一円たりとも置いてないけど、さっきの百五十万に味をしめて、もう一回、泥棒にはいるつもりか。

「おい、こら、泥棒!」
「う、うわー」

 俺は元々、高校のラグビー部で主将だった男だ。もう二十年近く、実戦でタックルをしたことなんて無いけど、身体が覚えている。しっかりと泥棒の腰の辺りに飛びかかり、シャッターに押し付けてから、「タケちゃん!警察呼んで!」と叫んだ。

 ここまでしか記憶がない。翌朝、俺が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。


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