この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十二話「提案」

time 2016/08/11

第百四十二話「提案」

 店長会議の朝は、とにかく気が重い。ウッチーみたいに周りのスタッフに当たり散らすのも情けないから、昼過ぎまで自宅でゆっくりして、直接、本社に向かうことにした。俺の気持ちを察しているのか、サエコも優しい。

「お昼、なにか食べたいモノある?」
「なんでもええよ。」
「たまにはリクエストしてや。」
「焼き魚とか、ええなぁ。」
「サンマ、買ってこよか。」
「もう脂が乗ってないんちゃうかな。」
「ああ、もう十一月か。」

 年末に向けて、風俗業界も稼ぎ時だ。しっかりと稼げる店なら、季節なんか関係なく、いつでもお客様が来るんだけど、プリプリにとっては新規顧客を集めるための重要な時期になる。寒さに震えながら来店されたお客様に、最高のサービスを提供すれば、きっとリピーターとして帰ってきてくれるに違いない。

 仕事のことを考え始めると、夢中になってしまう。そんな時は、俺の表情を見れば分かるらしく、サエコは何も話しかけず、ひとりでワイドショーを見て笑っている。こういう時間も、たまには良いもんやな。

「そろそろ、行ってくるわ。」
「はい、いってらっしゃいませ!」
「たぶん、会長と飲みに行くから、遅なるわ。」
「うん。分かった。」

 今日の店長会議では、店の営業報告だけではなく、会長に対して、ひとつの提案をするつもりでいる。上手く伝えないと、めっちゃ怒られるような気がしていて、かなり気が重い。一応、クリちゃんと石川店長には、事前に話をしてあるから大丈夫だと思うけど、いつもの店長会議よりも、かなり緊張している。

「よし、プリプリも形になってきたな。」
「はい、年末年始に向けて、さらに頑張ります。」
「おう、この程度で満足すんなよ、田附。」
「分かってます、会長。」
「ほな、次は、ホームの方の報告を聞・・・」
「あ、会長、すみません。」
「なんや、田附。」

 毎月、過去最高を記録し続けているから、プリプリの営業報告に関しては、特に何も指摘されることなく、無事に終わった。新しい社員を補充して、組織として動き始めていることにも、会長は満足している様子だ。この流れに乗って、一気に自分の提案を持ち出そうとしたけど、一瞬だけ躊躇った結果、会長の言葉を遮る感じになって、「なんや、田附。」って言ってる顔が、めっちゃ怖いやん。

「あ、あのですね。」
「なんやねん。早よ言えや。」
「は、はい。」
「なんや、田附。」
「あの、うちの三階、四階なんですけど。」
「三階、四階?」
「あの、あれ、他の店として使えないでしょうか。」
「はぁ?」
「プリプリは、二階までで十分なんで。」

 大きな店舗を任せてもらって、大きな売り上げをあげれば、俺自身の実入りも大きくなる。だから、もちろん、四階までを最大限に活用できれば、その方が良いとは思う。とはいえ、今のプリプリの社員と俺の力量から判断すれば、二階までで十分だし、会長から言われている売り上げ目標を達成することも可能だと考えた。せっかく、祇園の一等地で風俗が出来るビルを確保できているんだから、三階から上を別の業態の風俗として活用した方が、グループにとっても良いのではないかという結論に至った。こんな感じで、理路整然と上手に話そうと思ったのに、俺、説明がめっちゃ下手クソや。

「たまには、ええこと言うな、お前。」
「え?」
「そうしよ、そうしよ。」

 意外にも、すんなりと提案が採用された。細かいことを何も聞かれることなく、俺の提案を、会長が受け入れてくれた。俺が行き詰まったら、クリちゃんと石川店長が助け船を出してくれる段取りなっていて、石川店長が「よろしければ、うちの北澤に、チャンスをあげてください!」と迫真の演技をする台本まで用意していたんだけど、全く予想外の展開になった。

 身構えていた石川店長が、すこし落ち着きなくピチピチホームの営業報告をしている間、会長に自分の提案がすんなりと受け入れられた俺は、感動で身震いが止まらなかった。もしかしたら、会長は俺のことを、ちょっとは認めてくれてるんかもしれん。めっちゃ嬉しい。

「田附、お前はどう思う?」
「え?」
「どう思うって聞いてんねん!」
「すみません、聞いてませんでした!」
「ボーっとすんなや、アホ!」
「はい、すみません!」
「お前、今晩、俺に付き合えよ。」
「はい!分かりました、会長!」
「何、ニコニコしてんねん。気持ち悪いな、お前。」
「すみません!ありがとうございます!会長!」


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