この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十一話「紅葉」

time 2016/08/10

第百四十一話「紅葉」

 京都の街のあちこちに、渡月橋を真っ赤な紅葉が取り囲むポスターが目立ち始めた。これを見て、そろそろ秋が近づいていることを感じる。京都に戻ってきてから数年は、古都の四季折々の姿に、いちいち自分の感情を重ね合わせたりもしたけど、最近では、そういう想いも薄くなってきている。

「今日の夕方、全体ミーティングやな。」
「はい、全員出席の予定です。」
「分かった。」

 月一回のピチピチグループの店長会議の前日に、プリプリだけの店舗内の全体ミーティングをすることにした。個々のスタッフの仕事が、グループ全体の活動の一部になっているということを意識してもらうための試みだ。

「ほな、まずは、新人の自己紹介からやろか。」
「吉田です。よろしくお願いします!」
「お前、新人ちゃうやろ。」
「あ、すみません。」
「俺よりも前からおるんやから、しっかり頼むで。」
「は、はい。」
「あ、ついでに、お前な。」
「はい。」
「今日からマネージャーな。」
「え?ほんまですか!」

 ウッチー時代からの最後の生き残りとなった吉田は、なんだかんだで一生懸命に仕事に取り組んでいる。元々が高校の野球部出身で、上の命令には逆らえないタイプだから、上司次第で変わる人間だったようだ。自分で自分のことを褒めるみたいで嫌やけど、上司が良いから、良い人材に育った。

 ついでに、この会議には参加していないけど、ウッチーの愛人だったイツキちゃんは今月、プリプリの売り上げナンバーワンになった。あっさりと店を去り、ちゃっかりと店に戻ってきて、あっという間にナンバーワンまで上り詰める。面白いこともあるもんだ。

「前田、お前も自己紹介せえ。」
「はい、前田です。主に遅番を担当してます。」
「それだけ?」
「好きな芸能人は、吉永小百合です。」
「お前、ほんまは何歳やねん!」
「好きな野球選手は、王貞治です。」
「もう、ええわ!」
「はい!」
「ついでに、お前も、マネージャーに昇格や!」
「え、ええー!」
「嫌やったら、辞めとくけど。」
「いや、嫌じゃないです。辞めとかんといてください!」
「分かったわ。まぁ、頑張れよ。」

 こいつら、もうちょっと厳粛な感じで、会議っていうものを出来へんのかな。店長の威厳を示してから、仰々しく新人事を発表して、吉田と前田が「今後とも、店のため、お客様のために頑張ってまいります。」みたいな忠誠を誓うコメントをしてくれるイメージやったのに、まったく違うやん。

「次の自己紹介は、誰や。」
「はい、西です!」
「うん。」
「吉田さんに、いろいろと教えてもらってます。」
「早番やな。」
「はい、そうです。」
「吉田を追い越すように頑張ってな。」
「いやいや、それは無理ですよ。」
「俺、たった四カ月で追い越したで。」
「そ、そうなんですか!」

 もう既に、俺の下剋上物語を生で見ていた人物は、吉田しか居なくなった。まぁ、ええけど。

「はい、次。」
「安木です。」
「うん。」
「前田先輩に負けないように頑張ります!」
「おう、頑張ってな。」
「それから、次。」
「松本です。風俗は未経験ですが、頑張ります。」
「いま、松本って、いくつ?」
「二十三になりました。」
「大学を出たばっかり?」
「そうです。立命館を出て、就職した会社を辞めて、それから来ました。」
「ここの方が、おもろいわ。頑張ってな。」
「はい!」

 吉田をリーダーとした早番チームは二人体制、前田をリーダーとした遅番チームは三人体制で、とりあえずの形になった。吉田と前田のそれぞれに十万円ずつを手渡して、飲み会でも何でも使い道は任せるから、チーム内の親交を深めるようにと伝えた。

「店長、明日の会議の準備は大丈夫ですか?」
「ああ、そっか。店長会議やな。」
「なんか重要な案件があるって言ってませんでしたっけ?」
「あかん。忘れてた!」


sponsored link