この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四十話「インターネット」

time 2016/08/09

第百四十話「インターネット」

 佐伯さんから「お前の好きにしたら、ええねん。」と言ってもらえて、力が漲ってきた。実際のところ、ウッチーの後釜でプリプリの店長になって、好きなように店を作り変えてきたんだけど、次々と辞めていった社員のことなどを考えると、少し弱気になっていたように思う。身の回りの人間には、大丈夫や、問題ないわ、などと強気に振る舞ってきたから、誰にも本心が打ち明けられず、孤独な気持ちに押しつぶされそうになっていた。

「ワンクリックあたり五十円ご請求します。」
「それ、高いわ。」
「絶対に見られるんですから。」
「そうやけど。」
「紙の雑誌だと、見ても見なくても、同じ料金ですよ。」
「言われてみれば、そうやな。」
「ホームページは、こちらで用意させていただきますし。」
「そこに女の子の写真を載せれるんやんな。」
「そうです。」
「その日に出勤してる子のリストみたいなのも載せれる?」
「毎日更新っていうのは、ちょっと無理ですね。」
「ああ、そうなんや。」

 新しい社員の雇用、女の子の採用、店舗の雰囲気の変更、接客方法の変更、料金体系の見直しを繰り返していたら、あっという間に半年が経ち、やっと広告にも手を付けられる状態になった。紙媒体に関しては、これまでよりも少し落ち着いた雰囲気にして、祇園にあるファッションヘルスであることを強調したデザインに変更した。そして、以前から気にはなっていたけど、何もできていなかったインターネット戦略を、いよいよ始めることにした。

「田附店長は、インターネットを使われますか?」
「たまにケータイで見る程度やけど。」
「どんなページを見られますか?」
「個人的に興味のあるページですねぇ。」
「たとえば?」
「いや、えーっと、趣味のページ。」
「趣味のページ?」
「出会い系とか。」
「ああ、なるほど。そうですか。」

 昔から馴染みの紙媒体のベテラン営業マンなら、なにも包み隠さずに言えるんだけど、インターネットは新しい業界だけに、部長の肩書のついた名刺を出した営業マンも、まだ三十歳手前ぐらいだし、その横には、俺に営業電話をかけてきた若々しい女の子も同席している。さすがの俺でも、同性愛者の出会いとか、乱交やスワッピング愛好者の掲示板を見ているとは、言えない。

「まさに、そういうページに広告が掲載できるんですよ。」
「うん、たまに見かけるわ。」
「そうですよね。風俗雑誌とは違う客層にアプローチできますよ。」
「雑誌を買うより手軽やもんなぁ。」
「そうです。さすが店長、その通りです。」
「とりあえず、やってみよか。」
「ありがとうございます!」

 めっちゃ爽やかな笑顔で「次回、ご契約書を持参いたします!」と去っていく若者ふたりを見送りながらも、俺の心は穏やかではない。表情に出ないように取り繕ったつもりだけど、あんな話をされたら、もう今晩のお相手を探すしかないやん。ムラムラして、たまらんわ。

「俺、ちょっと出てくるで。」
「はい、分かりました。店長!」
「しっかり頼むで、吉田。」
「はい!」

 四条通から、四条大橋を渡ると、四条河原町の交差点だ。例の阪急百貨店の角の世界地図のモニュメント前は、平日にもかかわらず賑わっている。インターネットの魅力を聞いた後では、なんだか原始的な気もするけど、やっぱり直接、自分の目で見て選ぶ方が、良いに決まってる。インターネットの影響で、デパートや百貨店が無くなるんじゃないかという雑誌の特集もあるみたいやけど、商品を見ずに買うなんてありえへんと思う。そんなことを考えながら、行き交う女の子に声を掛けまくる。

「すみません、ちょっと良いですか?」
「いえ、結構です。」

「すみません、こんにちは。」
「はい、こんにちは。」
「ちょっと一緒にお茶しませんか?」
「急いでるんで。」

「あの、清水寺って、どっちですか?」
「タクシーに乗った方が良いですよ。」
「あ、そうですか。」
「今、お暇ですか?」
「え、はい。」
「一緒に、清水寺に行きませんか?」
「え、ごめんなさい。」

 やっぱり、出会い系サイトの方が、良かったかもしれん。断られた女の子の何人かには、俺の名刺を渡して「良かったら連絡ちょうだい。」とは言ったけど、俺が求めてるのは、今晩のお相手やねん。ナンパなんかしてないで、インターネットを使っとけば良かったわ。

「ただいま。」
「あ、おかえり。今日は早いやん。」
「たまには早上がりさせて貰ってん。」
「ご飯食べて来た?」
「まだやねん。」
「分かった。ちょっと待っててな。」

 八千代館にでも行こうかと思ったけど、面倒くさくなって、自宅に帰ってきた。たまには家族サービスも必要だ。サエコとカオルコは既に食事を済ませていたけど、家族と一緒のリビングで晩御飯を食べて、カオルコを寝かしつけるサエコを待って、ベッドイン。

「サエコ、愛してるで!」
「うん、私も!」

日々の激務に追われながらも、ちゃんと家族サービスをする俺、かっこいいわ。


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