この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百三十七話「五木」

time 2016/08/04

第百三十七話「五木」

 俺がプリプリの店長になってから三カ月が過ぎた。自分のやりたいようにやれる店を作るには、とにかく人材が必要だから、男性スタッフの強化と、女の子の大量募集をして、中身を一新させた。店長就任当初は、前店長のウッチーが言ったことや、やったことを盾に、俺に不平や不満を言ってくる女の子もいたけど、既にここ数週間、ウッチーの名前を聞くことが無くなった。あの吉田でさえ、ウッチーのことなど忘れたかのように、お客様が来店されると飛び出して行って、寄り添うように接客するようになった。

「店長に、お客様です。」
「え?だれ?」
「いや、分からないですけど。」
「前田、お前、確認して来いよ。」
「分かりました。すみません。」

 まだ、こんな感じで、小さなミスは目立つけど、前田は本当に成長していて、週末の夜の混み合う時間帯でも、上手にアルバイトを使いながら、仕事をこなせるようになっている。風俗業界の人間は、新人スタッフが入ってきても「どうせ長くは続かないだろう。」と考えてしまいがちで、前田に関しても同じく、最初に面接した時には、俺は頭の中でそう思った。でも、前田は、それを見事に突破した。

「イツキさんだそうです。」
「五木さん?」
「はい、イツキさんです。」
「どんな感じのひと?」
「目が細くて、黒髪ですね。」
「誰やろ、全く思い出されへん。」
「どうしましょうか?」
「名刺とか、持ってはれへんかな?」
「聞いてきます!」

 ピンクデザイアの頃には、本当にいろんな人が店を訪ねてきた。大阪のヤクザ風のオッサンとか、植木業者とか、警察とか、役所とか、働いている女の子の彼氏とか、税理士とか、弁護士とか、思いがけない来客による疲労困憊が、店を閉めた最大の理由だと言っても過言ではない。プリプリに再就職してからは、大体のことをグループが処理してくれるので、お客様の方だけを向いて仕事に打ち込めるのが嬉しい。

「名刺は、無いそうです!」
「目が細くて、黒髪の五木さんやんな。」
「はい、そうです。」
「五木ひろししか思い浮かべへんわ。」
「店長、おもしろい!」
「笑ってる場合とちゃうねん。」
「すみません。」
「ほかに特徴は、なんか無いの?」
「髪は長くて、わりと派手な服装です。」
「派手なスーツってこと?」
「違いますよ。ノースリーブのワンピースです。」
「はぁ?オンナなん?」
「そうですよ、イツキさんです。」
「五木にも、男と女がおるやろ、アホか。」
「そうですか、すみません。」

 さすがに何度も前田に対応させるのは失礼なような気がして、五木さんっていうのが誰なのか分からぬまま、フロントに行ってみると、俺が店長になったことが不満だと言って店を辞めたウッチーの愛人のイツキちゃんが待っていた。前田のやつ、“イツキ”の発音が違うねん。あいつ、どこの出身やったっけ。

「あ、やっと出てきた。」
「ごめん、ごめん。バタバタしてて。」
「さっきの男のひと、新しく入ったひと?」
「そうそう、前田。」
「トロそうやから、辞めさせた方がええよ。」
「次の店長候補やで。」
「もう、しょうもない冗談はやめて。」
「ほんまやって。」
「はいはい。分かりました。」

 まだまだ俺が店長として頑張らないといけないことが沢山あるけど、将来的には前田に店長をさせたいと思っている。もう少し売り上げが伸びたら、男性社員を何人か入れて、そのタイミングで、前田をマネージャーに引き上げるつもりだ。

 俺の着任後三か月間の成果は、一応、会長にも納得してもらえている。ウッチー時代と比べれば、売り上げが二倍以上になっているから、とりあえず会長の選択は間違ってなかったとは思ってくれているはずだ。とはいえ、俺自身は全く満足していなくて、もっともっと売り上げを伸ばさないといけないと思っている。ここからが、俺の本領発揮やで。

「ところで、イツキちゃん、何しに来たん?」
「あたし、もう一回、働かせて!」
「はぁ?」


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