この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百三十四話「対峙」

time 2016/08/01

第百三十四話「対峙」

 俺を呼びに来た北尾は、もう足がすくんでしまって動けない様子なので、俺が対応するしかないと、仕方なくフロントに行ってみると、確かにド派手な服装をしたイカつい顔のヤクザ風の男が立っている。そして、その男と対峙して、前田が立っている。

「ずっと待ってんのに、お前、なんやねん。」
「すみません!」
「今すぐや、早よせえや。」
「無理です!」
「俺も、もう限界やで。」

 何の話をしているのか分からないけど、こんなところで立ち話されるのは、かなり迷惑だ。ふたりの間に割って入り、「続きは、事務所のなかでやってください。」と言って、オフィスの方に案内した。本当は、オフィスで話されるのも迷惑なんだけど、お客様が出入りするフロントで揉められるよりはマシだ。オフィスに隠れていた北尾が、また自分のところにヤクザが来たと、たじろいでいるから、「フロントに立っとけ。」と、接客業務に戻るように促した。

「どうぞ、座って話してください。」
「おう、悪いな。」
「あんなとこで話されたら、困るので。」
「そら、そうやな。」
「で、なんですの?いったい。」
「借金の取り立てや。」
「そうですよね。」
「なんや、お前。こいつの上司か?」
「はい、この店の店長させてもらってます。」
「ほう、そうか。」
「はい。」
「お前からも、言うてくれ。早よ払えって。」
「ナンボですの?借金って。」
「二百万や。」
「え?たったの二百万ですか?」

 もちろん、二百万円も、大金だ。前田の給料では、すぐに返済できるような金額ではない。でも、前田の借金は五千万円だと聞いているから、随分と小さな額に思える。

「だいぶ利息が増えてるんですか?」
「いや、毎月、利息だけは払いよるねん。」
「え?そしたら、ええんちゃいますの?」
「こんなガキに、貸しとけるかぁ、ボケ。」
「そもそも、オヤジの借金なんでしょ?」
「そ、そうや。」
「こいつ、返すって言うてるんでしょ?」
「お、おう、そうや。」
「もうちょっと、待ったってくださいよ、奥田さん。」
「なんでお前、俺の名前を知ってんねん?」

 こんな真緑のスーツの上下を着た人間を、忘れる方が難しい。フロントに駆け付けた時、先に前田の顔が見えて、この男は後ろ姿だったけど、それでも奥田金融の奥田さんだということは、すぐに分かった。十年ぶりくらいの再会だ。

「西城のオッサンは、あれから、どうしたんですか?」
「ああ?西城?」
「ピチピチで働いてた西城ですよ。」
「あのヤクザ崩れの西城か。」
「はい、そうです。」
「あいつ今、木屋町でサンドイッチマンやってるわ。」
「え、ホンマですか?見に行ったろ。」
「お前、誰やねん。」
「ピチピチホームにいた田附と言います。」
「え?佐伯さんの部下か。」
「あの時も、事務所にいました。」
「若いのが一人おったけど、あれがそうか。」
「はい、そうです。」

 あの時、目の前で起きていることが分からず、ただ茫然と立ちつくしていただけで、ひと言も言葉を発することができず、ただ西城のオッサンが追い込まれていく様子を、特等席で眺めていた。奥田さんを見ながら「カマキリみたいやなぁ。」と思い、佐伯店長を見ながら「こんなヤクザみたいな人と対等に渡り合ってて、かっこいい。」と思い、まっすぐに立っているだけで精一杯の状況だった。今の前田も、そんな心境なのかもしれない。

「ほな、話は早いわ。」
「待ったってくれますか?」
「待たれへんって言うてるやん。」
「だって、無理ですやん。すぐに完済は。」
「無理は承知の上の話や。」
「相続放棄したら、元も子もないでしょ。」
「そ、そらそうやけど。」

 こんなとき、佐伯さんが居てくれたらなと久しぶりに思った。普段の業務に関しては、多くのことを学ばせてもらったから、自分なりに自信も持てているけど、こういう突発的なトラブルへの対処をするには、まだまだ経験不足だ。もっと色んなことを、佐伯さんから教えてもらいたかった。とはいえ、もう佐伯さんは、いない。俺が、やるしかない。さっき、相続放棄という言葉を出したとき、奥田さんが明らかに怯んだ。ここを突くしかない。

「こいつから、連帯保証を取ってないですよね?」


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