この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百三十三話「前田」

time 2016/07/29

第百三十三話「前田」

 風俗業界の人の入れ替わりは、激しい。男も女も、次々と来ては去っていく。俺も、ピチピチグループにとっては出戻り組だから、他人のことを悪くいうつもりはない。とはいえ、前田よ、あれだけ気合が入っていたのに、どうしていきなり軽々しく「辞めさせていただきます。」なんて言ってるの?

「本気で言うてんの?」
「はい!」
「どこに行くん?」
「決めてないです!」
「辞めたいの?」
「はい!」

 今宮の指導のおかげで、前田は、かなり成長した。店内での受付や接客業務に関しては、ほぼ完ぺきにこなす。自信がついたから、ほかの店で働きたいということなんだろうか。もしくは、この仕事が辛いから、風俗を辞めたいということなんだろうか。

「どっちでもないです。」
「はぁ?」
「そしたら、何なん?」
「店長、怒りませんか?」
「そら、内容によるやろ。」
「自分、カレンさんのことが好きになっちゃって。」
「はぁ?」
「めっちゃ好きなんです。」
「で?」
「お客様がついてるのが、辛いんです。」
「はぁ。」
「もう、耐えられないんです。」
「で、辞めたいの?」
「そうです!」

 世の中、男と女がいれば、色恋の問題が生まれる。風俗なんていう性をさらけ出した場所では、さらに問題は増えるのかもしれない。俺も、最初の嫁が、ピチピチグループで伝説となっている圧倒的ナンバーワンだったから、他人のことを悪く言うつもりはない。

「興奮せえへん?」
「え?店長、なんですか?」
「興奮せえへんか?って聞いてんねん。」
「それ、どういうことですか?」
「めっちゃ好きな子が、他の男と肌をこすりつけあってんねんで。興奮するやん。」
「意味が分からないです。」
「前田くん、今の状況を楽しめ!」
「はぁ。」
「これ以上の興奮はないで。」

 決して、口から出まかせではない。シズエがまだハルカだった頃、付き合っているけど、誰にも公表してなくて、お客様を部屋に案内しながら興奮し、お客様からハルカの感想を聞いては興奮し、たまにハルカの接客の様子をスリットから覗き見ては興奮し、そして、興奮が抑えきれない状態で、ハルカのマンションに一緒に帰って、毎晩のように抱き合った。今から思えば、あれほど興奮した日々は、他にはない。

「自分、帰ってから大興奮で自慰してます!」
「ええやん。」
「そうなんですね!」
「当たり前やん。」
「自分、辞めません!」

 こんな話をしていたら、なんかムラムラしてきた。最近また、店の女の子を集めるために、出会い系の掲示板を頻繁に見ているんだけど、今日は自分の相手を探そう。店長人事とは関係なく、この三カ月で辞めていった女の子が五人いたけど、その分、前よりも良い子を七人採用したから、全く問題ない。

「田附店長!すみません!」
「なに?どないしたん?」
「あの、えーっと。」
「え?なに?」
「フロントにヤクザが来てます!」
「ええ?」

 アルバイトの北尾が、血相を変えて、オフィスに飛び込んできた。この店でのアルバイト歴が長くて、常に沈着冷静なイメージの北尾が、こんなに取り乱している姿を見るのは、初めてのことだ。

「ちょっと落ち着けって。」
「はい。は、はい、はい。」
「ヤクザ?ほんまに?」
「はい、ヤクザです。」
「ただのお客様と違うの?」
「あの、前田おるか?って言われました。」
「なんて答えたん?」
「はい、います。って。」
「アホか、お前は。」
「いません。って言ってきます!」
「それ、信じる奴おらんやろ?」

 久しぶりに遊びに行こうとワクワクしていたのに、なんだか面倒くさいことが発生したみたいだ。どうやら、そのヤクザは、しびれを切らしているようで、オフィスの中にいる俺のところにまで、叫び声が聞こえてきた。もう、なんやねん。

「おい、早よ、前田を連れてこい!」


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