この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百二十九話「挨拶」

time 2016/07/25

第百二十九話「挨拶」

 俺の店長就任祝いだと言われたはずの飲み会は、半分くらい会長からの説教で終わった。説教の内容は、ほとんどがプリプリの現状に対するもので、本来であれば「内藤さんのやったことですから。」で済む話なんだけど、既に俺が店長を任されたんだから、過去も含めて俺が責任を取らなければならない。ウッチーを言い訳に使っても、何も前に進まない。きっと会長は、俺への叱咤激励のために説教してくれているんだろうと思うと、感情が高ぶり涙が溢れ出してきて、「お前、気持ち悪いねん。」と怒鳴られた記憶がある。

 ブクープに辿り着いたのは、夜中の二時前くらいだったけど、タケちゃんが満面の笑顔で出迎えてくれて、顔見知りのお客さんたちと一緒に盛り上がった。あのヴィンテージワインのボトルを持ってきたタケちゃんと、がっちりと握手をして、周りのお客さんからも祝福してもらって「おめでとう。」「ありがとう。」を百回くらい繰り返したのは覚えているけど、その後の記憶がない。まぁ、ちゃんと自宅に帰ってきてるから、大丈夫やろ。たぶん。心配やから、あとでタケちゃんに電話しよ。

「おはよう。」
「あ、おはよう。頭痛いわ。」
「ただの飲み過ぎやろ。」
「会長に付き合っててな。」
「あ、そう。」

 やっとの思いで店長になれたのに、サエコのやつ、めっちゃ冷たいやん。そりゃあ、連日の朝帰りやし、家族サービスも出来てないけど、今日くらいはもうちょっと主人のことを祝ってくれても、ええんちゃうの。
あ、ヤバい。俺が店長になったこと、サエコに報告するの忘れてた。

「なぁ、サエコ。」
「何か食べる?」
「ちゃうねん。」
「お腹すいてないの?」
「いや、だから飯は、ええねん!」
「なに?大きな声で。」
「俺な、店長になってん!」
「ええ?ほんまに?」
「うん。」
「良かったやん。ヒロキ、すごい!すごい!」

 二日酔いで頭がガンガンしてるのに、サエコのやつ、めっちゃウルサいやん。そりゃあ、無職の休養期間が長かったし、平のスタッフは給料が安かったから、嬉しいのは分かるけど、もうちょっと主人のことをいたわってくれても、ええんちゃうの。

「店に行ってくるわ。」
「もう行くん?」
「店長初日やからな。」
「そうやな。頑張ってな!」
「今日も、帰り遅なるわ。」
「分かった!いってらっしゃい!」

 昨晩の会長の説教が、頭に鳴り響いている。とにかく最初の月から、結果を出さなければならない。本当は、ウッチーの遺産を全て取り去って、ゼロから店を作っていきたいというのが本音だけど、そんな時間は無さそうだ。

「おはようございます。田附店長!」
「おう、おはよう。」

 まず、この吉田を、どうすべきか。一生懸命に俺に尻尾を振って、「コーヒーを入れましょうか?」なんて言ってくるところは可愛げがあるけど、頭の天辺から足の爪先まで、ウッチーの考えが染み付いた人間を、使い続けていいんだろうか。

「なぁ、吉田。」
「はい!店長!」
「俺の接客、見てたやんな?」
「はい。」
「今日から、お前も、アレやれ。」
「分かりました!」

 女の子たちには、まだ俺の店長就任が伝わっていなかったから、自分でそれぞれの部屋を訪ねて、報告をした。ナミエちゃん、シノブちゃん、ヒトミちゃんは元々、ウッチーのことが大嫌いだったから、俺の店長就任というよりも、ウッチーがいなくなったことを喜んでいる。今月から入ったイズミちゃんは、突然のことに驚いてはいたけど、特に何の感情もないようで「これからは、田附店長って呼べばいいですか?」とだけ、質問された。

 夕方になって、遅番のスタッフが出勤してくる。これまで出退勤の時間に挨拶をする程度だったから、まずはミーティングをする必要がある。

「マネージャーの今宮です。」
「西谷浩二です。」
「アルバイトの北尾です。立命館の四回生です。」
「アルバイトの飯田です。立命館の二回生です。」
「新しく店長になった田附です。」

 まだ自分でも、店長と名乗るのがしっくり来ない。とりあえず今日は、挨拶と自己紹介だけ済ませて、夜の営業の様子を確認しながら、少しずつ改めるところは改めていこう。そう思ったとき、デカい声で「すみません。」と言いながら、手が上がった。

「なんで今宮さんが店長ちゃうんですか?」


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