この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百二十八話「ナンボ」

time 2016/07/22

第百二十八話「ナンボ」

 ソファーに腰を下ろした瞬間、会長から矢継ぎ早に質問が飛んできた。すんなりと答えるのが難しい質問も、いくつか混ざっているけど、それでも、この程度の内容は、俺がプリプリに入ってからの三ヶ月と少しの期間、毎日毎日、考え続けてきたことだ。日頃の学習の成果を、先生の前で発表しているようなもので、会長の圧力にさえ負けなければ、本当に大したことがない質問ばかりだ。

「プリプリの先月の売り上げは、ナンボや?」
「一千四百五十二万円です。」

 正直、自分が所属している店の売り上げだと思うと、本当に情けなくなる数字だ。ブクープから広げてもらった常連の輪が、かなり広がってきているとは言え、それでもピチピチグループの他店と比べれば、雲泥の差だ。たしかデラックスの石川店長が、先月の売り上げが八千万近いと言ってたから、比べるのも失礼なレベルだ。

「その売り上げは、早番がナンボで、夜がナンボや?」
「ほぼ半々です。昼が半分、夜が半分です。」

 これに関しては明らかに異常だ。俺のお客様が、俺のいる昼間に集中しているから、やたらと昼間の売り上げが積み上がる。本来、昼間の切通しは観光客で溢れていて、お客さんが店に入りづらい環境で、ほとんどの売り上げを夜で稼がなければならない店舗なんだから、半々なんてありえない。まだまだ、会長の質問攻勢は続く。

「一番稼いでる子で、月の稼ぎはナンボや?」
「八十万に届くか、届かないかぐらいです。」

 女の子のナンバーワンについても同じ。あのヒトミちゃんが、ほとんど昼間の出勤にも関わらず、店で最も稼ぐ女の子になってしまっている。俺がアドバイスをしている女の子が活躍してくれているのは嬉しいんだけど、さすがに昼に出勤している女の子がナンバーワンになるなんて、かなりの異常事態だ。

「木屋町と祇園の違いを、言うてみい!」
「同じところを見つける方が難しいくらい違います。」

 祇園と木屋町の違いは、二日間ぐらい夢中で話しても足りないくらいのテーマだ。鴨川の対岸同士でありながら、祇園の常識は木屋町の非常識、木屋町の常識は祇園の非常識。とにかく全く違う街だと考えないといけない。内藤店長がプリプリの経営をしくじっている根本的な問題は、この点について理解していないことだと、俺は思っている。

「火曜と木曜の客層は、おんなじか?」
「火曜日より木曜日の方が、金に余裕のある人が多いです。」

 火曜日と木曜日の違いという質問には、驚いた。まさに俺が数日前に、真剣に頭を悩ませていたことだ。普段、風俗関係者は、一週間を平日と週末に分けて、それぞれの客層や来客時間の違いなどを考慮して、広告だとか、女の子やスタッフの配置を考える。でも、俺たちは風俗という業界にいるんだから、もっともっと細かく、曜日ごとの違いを意識しなければならないんじゃないかと考えていた。会長が、なんで俺に、火曜日と木曜日の違いを聞いたのかは分からないけど、なんか会長とシンクロしているみたいで、ちょっと嬉しい。

「お前、店長やるのに欲しい給料は、ナンボや?」
「は?」

 ここまで全ての質問に対して、即答で答えてきたけど、これはどう答えていいのか分からない。会長がこういう席で冗談を言う人間ではないことは十分に分かるけど、それにしても唐突すぎる。

「早よ、答えろや、田附!」
「え、ええ、いや、あの。」
「早よせえや。忙しいねん!」
「いや、ホンマですか?」
「何がやねん!答えを言えや!」
「あ、はい。」
「お前、店長やるのに欲しい給料は、ナンボや?って聞いてんねん!」
「月に百万と、営業利益の二割で・・・」
「よっしゃ。それで行こ。」

 俺と会長のやりとりを静観していた他店の店長たちから「おめでとう。」「おめでとうございます。」と、声が掛かる。栗橋は、会長の手前、かなり抑えているんだろうけど、それでも満面の笑みで、俺に近づいて、握手をしてくれる。

「田附さん、おめでとうございます。」
「ありがとう、栗橋専務。」
「クリちゃんで良いですってば。」
「そうか。ありがとう、クリちゃん。」
「さっきの会長の一連の質問なんですけどね。」
「あ、うん。」
「あれ全部、内藤店長が即答できなかったやつなんですよ。」
「え?流石に、店の売り上げとかは分かるやろ。」
「いや、資料を見ないと分からんって。」
「なるほどな。それで会長が激怒したんや。」
「はい。」

 会長から店の売り上げを詰められた内藤店長が、苦し紛れに俺の名前を出して言い訳を始めたから、会長が発狂して「本人を呼んで来い!」という流れになり、俺のところに電話がかかってきたんだけど、その後、俺がここに到着するまでの間に、さらに詰められ内藤店長は、突然奇声のようなものを発したかと思うと、「すみません!すみません!」と言いながら、非常階段を駆け下りて行ったらしい。なんだか内藤店長が、可哀想に思えてきた。

「田附の店長就任祝いや。飲みに行くで。」
「はい!ありがとうございます!会長。」
「おい、泣くなや、ブサイクが!」
「すみません。でも、嬉しいんです。」

 会長が少し遅れて行くから先に行っておけと言うから、俺と栗橋の二人がタクシーに乗り、先に祇園のクラブに向かうことになった。栗橋がめっちゃ俺のことを褒めまくってくれるんだけど、どうしても電話を掛けたい人がいるから、少し栗橋の話を遮って「ごめん。一本だけ電話させて!」と、携帯電話を耳に当てる。

「もしもし、今晩、遅なるけど行くからな!」
「おお、タズヤン。待ってるで。」
「それでな、あのな、タケちゃん。」
「どないしたん?」
「今日な、俺な。」
「うん。」
「あのヴィンテージワインを開けるから!」
「え、ほんまに?」
「おう。」
「やったな!タズヤン!おめでとう!」
「ありがとう、タケちゃん。」
「ホンマ凄いわ。」
「タケちゃんのおかげやで。」
「それにしても、四ヶ月経ってないやん。」
「ホンマやな。」
「なんかの間違いとちゃうの?」
「俺を誰やと思ってんねん!」
「失礼しました、田附店長!!」


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