この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百二十五話「我慢」

time 2016/07/19

第百二十五話「我慢」

 俺が頑張れば頑張るほど、店にお客様が来て、店が儲かるから、内藤店長が調子に乗って、吉田が調子に乗って、俺がイジめられる。つまり、俺が頑張れば頑張るほど、俺がイジめられる。なんだろう、この悲しい現実は。

「おーい、田附くん。」
「はい、店長。」
「君が馬鹿にしていた企画、大成功ですよ。」
「良かったです。」
「君は馬鹿にしていたんだけどね。」
「すみませんでした。」
「心から謝罪せえよ、バカ野郎が。」

 完全な勘違いなんだけど、「俺が、あちこちに声をかけて、客を集めてるんですよ。」とは言わない。まだ、我慢の時だ。

「田附くんの過去の実績から考えたら、もうちょっと良いポジションにつけたらんとアカンかなと思ってたけど、あんな風に企画を批判されて、その批判してた企画が見事に成功してるんやから、もう一回、下っ端から頑張ってもらうしかないわな。」
「はい、そのつもりです。」

 内藤店長の下で良いポジションになんか就きたくないと思うけど、ぐっと堪えて、口にも表情にも出さない。我慢、我慢。

「よくよく考えたら、店を潰して失業状態だったのを、うちのグループが助けたったんやから、どんな仕事でもやって当然やわな。」
「はい、そうですね。」

 いや、失業状態と違うねん。長めの休息期間や。そもそも、俺は店を潰したんちゃうし。もうイチイチ細かいことを修正する気も起こらない。ああ、我慢、我慢。

 今日の店長がネチネチとうるさいのには、理由がある。午後に、店長会議があるからだ。お客様が少し増えたとは言え、会長が求めているレベルには程遠いから、また会長に詰められる。もしかしたら、朝までコースの果てしない説教が待っている。だから、店長はイライラしていて、俺に当たっているだけだ。

「今日は店長、胸張って会議に出れますね。」
「なんで?」
「客が増えて、売上も上がってるから。」
「そうやな。」

 店長を見送る吉田は、能天気だ。しっかりと部下を教育していない店長が悪いんだけど、今の店の状況を見て、どうして胸を張れると思えるんだろうか。店を出ていく店長の背中は、どう見ても、自信なさげで、憂鬱が滲み出ていたし。

 まぁ、あの店長会議の独特な雰囲気は、体験した者にしか分からないかもしれない。店の調子が良い時には、会長への報告もすぐに終わるし、周りも温かく接してくれる。でも、店の成績が振るわない時には、会長からの叱責が激しく、他の店長からも冷たい視線が送られる。ホンマに、売り上げが悪い時の店長会議は辛い。そんな辛い店長会議に、この四年近く、ずっと出席してきた内藤店長は、ある意味、すごい。

「田附さん、ちょっと良いですか?」
「はい、ナミエさん!」
「相談なんですけど、時間あります?」

 女の子との関係は、日を追うごとに良くなってきているけど、相談なんて言われたら、めっちゃ嬉しいやん。しかも、内藤店長が不在の最高のタイミングだ。

「わたし、もっと稼ぎたいんです。」
「うんうん。」
「どうしたら良いと思いますか?」
「えっとな。俺、受験のために東京に行ってな・・・」

 いまだに俺のなかで最高の風俗嬢と言えば、あの新宿歌舞伎町のワンダラーのマイだ。彼女との経験があったからこそ、俺のこの業界で仕事が出来ると言っても過言ではない。だから、漠然と稼ぎたいと言うナミエちゃんにも、俺とマイのストーリーを話す。

「田附さん、ありがとうございます!」
「また、なんかあったら、言うてな。」
「はい!ありがとうございます。」

 俺、すでに数百回と、風俗嬢に対して、マイの話をしているんだけど、今でも最後の別れのシーンを話すときには、涙が出そうになる。俺が夢中で話すもんだから、聞いている風俗嬢にもしっかりと思いが通じて、めっちゃヤル気になってくれる。そして俺も、マイの話をしたら、めっちゃ元気になるねん。

 ナミエちゃんからの相談を受けながら、俺のやっていることが間違っていないと再確認できた。俺は、このまま突き進むで。


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