この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百二十二話「タケちゃん」

time 2016/07/14

第百二十二話「タケちゃん」

 木屋町のピチピチデラックスから、もう一度、祇園の切り通しに戻ってきた。すぐに内藤店長に物申しに行こうかとも考えたけど、どれだけ真剣に話したところで分かってもらえる相手では無さそうだから、やめとく。プリプリのスグ近所のビルに入っている「ブクープ」というバーに向かう。

「タケちゃん、お久しぶり。」
「あ、タズヤン。一週間ぶりかな。」
「相変わらずの男前やな。」
「タズヤンは、なんか疲れてるなぁ。」
「そうやねん。しんどい。」

 ここには、かれこれ四、五年、通っている。オーナーのタケちゃんこと、山下武造とは、このバーが出来る前から知り合いで、「祇園で一番の店、作るからな。」と息巻いて、開店準備をしていた頃のことも知っているし、開店後の色んな問題を解決するために、コツコツと努力を続けてきたのも知っている。だから、俺にとっては、かなり思い入れのあるバーだ。

「常連さんが、近くでタズヤンを見たって。」
「あ、そうなんや。」
「なんか仕事、始めたん?」
「え?なんで分かんの?」
「いや、スーツにネクタイやから。」
「あ、そうか。」

 本当は、出勤初日に遊びに来て、ピチピチグループ復帰を報告に来ようと思ってたけど、トイレを舐めさせられたり、小言を浴びせられたりで気落ちして、ここに来る気にならなかった。でも、今日、自分のやることが明確になって、前向きな気持ちになれたから、やっとタケちゃんに報告に来れた。

「随分とご近所さんになったなぁ。」
「そうやねん。」
「今度、遊びに行かせてもらいます。」
「あ、奥さんにチクったろ。」
「アカンって。冗談やって。」
「まぁ、黙っとくから、遊びに来てや。」
「いや、アカン。俺、行けへん。」

 祇園で一番の伊達男は、身だしなみから日常生活まで、すべてが洗練されている。以前は、俺と一緒に祇園界隈を飲み歩いたこともあるけど、結婚してからは、付き合い以外の女遊びは断って、奥さん一筋だ。いきなり硬派へと変身できるところも、大人の男っていう感じで、かっこいい。

 そういえば、タケちゃんの奥さんって元々、祇園の超売れっ子の芸妓やねん。うちのサエコが、木屋町で一番のキャバクラのナンバーワンだったのとは、訳が違う。

「前に、タズヤン、あの店の文句、言うてなかった?」
「あの店って、プリプリのこと?」
「そうそう。」
「よう覚えてるなぁ。思いっきり文句、言うてた。」
「当時とは、だいぶ雰囲気が変わったん?」
「いや、ほんま最悪。めっちゃ酷い。」
「そうなんや。」
「そんな店で、ええの?タズヤン。」
「アカンに決まってるやん。」
「そうやろな。」

 そうそう、俺、ただの客としてプリプリに行ったとき、不満だらけでサービスも受けずに店を出て、その足で、ここのバーに駆け込んで、酒を飲みながら、さんざん文句を言いまくってた。絶対に二度と足を踏み入れないと思ってた店に、まさか自分が勤めるようになるとは。あの時の俺には、想像できなかった。

「あの店は変わらなアカンねん。」
「他人事みたいな言い方やな。」
「俺、ペーペーやもん。」
「でも、なんかやろうと思ってるんやろ?」
「当たり前やん。」

 身内のことだから、本来は外部の人間に話すべきではないけど、あの店が抱えている問題について、タケちゃんに洗いざらい話をした。もちろん、その大半は、内藤店長のことだけど、それだけではなく、店の集客力とか、働いている女の子のこととか、思いつくことを全て吐き出した。

 タケちゃんは、風俗に関しては門外漢だから分からないと言いつつも、切り通しという場所の特徴や、集客に関するアイデアなど、自分が商売をしてきた経験を踏まえて、優しくアドバイスをくれた。

「ありがとう、タケちゃん。」
「タズヤン、がんばってや。」
「祇園で一番の風俗店に、するからな。」
「ええ店になったら、俺も遊びに行かせてもらうわ。」

 タケちゃんの言葉は、リップサービスだと思うけど、それでも、誰に対しても「遊びに来て。」と自信を持って言える店にするために、俺は頑張る。今のプリプリが自分の職場って、恥ずかしいからな。タケちゃん、ありがとう。

「ほな、俺、帰るわ。」
「いやいや、タズヤン。」
「え?なに?」
「まだ、何も注文してないやん。」
「あ、そうか。」
「今日は、あれ、シャンボール・ミュジニーの1989年がオススメやで。」
「うわ、そんなんグレートビンテージやんか。」
「そうや。ええやろ。」
「あ、ごめん。今日は、やめとくわ。」
「どうしたん?」
「俺、まだペーペーやから、ブルゴーニュ・ルージュをグラスで頂戴。」
「そうか、分かった。」
「さっきのワインは、俺があの店を変えるまでキープしといてや。」
「はいはい。」
「金は今日、払うけど、まだ飲んだらアカン気がするねん。」


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