この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百二十一話「先輩」

time 2016/07/13

第百二十一話「先輩」

 就業時間が過ぎて、プリプリを出た俺は、ピチピチデラックスに石川店長を訪ねた。これが初対面だ。栗橋に用件を伝えて、事前に連絡してもらおうかとも思ったけど、下手にコトを荒立てたくないから、いきなり訪ねた。それでも、石川店長は、俺のことを知っていたらしく、快く店の事務所に招き入れてくれた。まぁ、汚い事務所だけど。

「田附さん、お名前は聞いてます。」
「ほんまですか。」
「女の子を扱わせたら天才やって。」
「天才ちゃうけど、うれしいわ。」
「それで、どうされたんですか?」

 昼間の内藤店長の酷い仕打ちを、俺個人として詫びた。本来なら、店として謝罪しなければならないことだけど、内藤店長と吉田は「アイツらは、アホや。」とか「うちを舐めてる。」とか話をしていて、自分たちに非があるとは思っていない。店からの謝罪は、店長が頭を下げる以外に、できない。

「ほんまに、ごめん。」
「いや、田附さんに謝られても。」
「そうやんな。納得できんよな。」
「いつもアレですから、良いんですよ。」
「ずっと、あんな感じなん?」
「そうです、ずっと。」

 内藤店長のグループ内での評判は、すこぶる悪いようだ。勤務年数だけは長いから、周りの人間のほとんどが後輩で、アドバイスには聞く耳を持たず、手助けには今日みたいに仇で返すことが日常なのだそうだ。女の子を紹介してあげたのに、電話でめっちゃキレられるようなのが日常って、どういうことやねん。

「専務が、めっちゃ喜んでましたよ。」
「え、栗橋セン・・・クリちゃんが?」
「はい、戻ってきてくれったって。」
「クリちゃんと仲がええの?」
「俺、もともと専務の下にいたんで。」
「もしかして、ホームにおったん?」
「はい。ピチピチホーム出身です。」
「なんや、後輩やん。俺も嬉しいわ。」

 佐伯専務が去って、俺の居た頃とは全く違うピチピチグループになってしまったんだと思っていたけど、こうして俺の培った文化、いや、佐伯専務から学んだ精神が、今でも引き継がれていることを知って、めちゃくちゃ嬉しい。

「田附さんが、プリプリの店長をしたら良いのに。」
「俺、新人のペーペーやから。」
「内藤さんだと、無理ですよ。あの店。」
「そうやろなぁ。」
「田附さんも、分かってるんじゃないですか。」
「そら、分かるけど。」

 まだ、再就職から一週間も経ってないけど、あの店の問題点がいくつも見つかった。ほとんど全てが問題だ。栗橋が、俺をあの店に送り込んだのも、きっと今の状況を分かっていて、何とか変えて欲しいという気持ちからなんだろう。俺には出来る。いや、俺にしか出来ないかもしれない。やろう。

「石川店長、いろいろと助けてください。」
「“石川”で、良いですよ。田附先輩。」
「ありがとう。」
「俺の方こそ、色々と勉強させてください。」
「お互いに頑張ろな。石川くん。」

 今になって思い出したけど、そもそも内藤店長は以前、このピチピチデラックスの店長だった。当時のデラックスは、色んな企画を打つわりには、全く振るわず、いつも会長が激怒していた。そして今、内藤店長のプリプリが、業績不振で鳴かず飛ばず。すでに三年近くやってるのに成果が上がらないって、やっぱりセンスがないんじゃないか。

「もしもし、クリちゃん?」
「はい、田附さん。」
「俺、やることが分かったから。」
「お、いいですね。」
「任せといて。やったるから。」
「よろしくお願いいたします。」

 あの店は、問題だらけ。悲惨な状況だ。でも、これは俺にとっては好都合だ。最悪の状態なんだから、何をやっても状況は上向く。とにかく片っ端から、問題を潰していけば良い。まずは、何から手を付けようか。

 とりあえず、考えてばかりいるのは疲れるから、祇園のバーに飲みに行こ。


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