この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百二十話「グループ」

time 2016/07/12

第百二十話「グループ」

 ファッションヘルスの新人の仕事は、トイレ掃除に始まり、精子まみれのタオルの入った袋の運び出し、そして、女の子たちのパシリ。とはいえ、早番で出勤している女の子は、たったの三人しかおらず、来客数もさほど多くないから、運ぶタオルも少ないし、パシリを頼まれることも一日に三回くらい。

「めっちゃ暇な店やな。」
「そうですか。今日は、かなり忙しいですよ。」
「そうなんや。」

 この吉田は、内藤店長の犬だ。命令されたことは、何ら疑問も持たずに実行する。そして、命令されていないことは、何もしない。おそらく、この店から、この世界に入ったんだろう。だから、この店がどれだけ酷い状況なのかも、理解していない。

「六部屋あんのに、なんで女の子が三人しか出てきてないの?」
「すぐに辞めるんですよ。」
「そうなんや。」
「風俗なんかやる子、辛抱強くないですから。」
「まぁ、そうかもな。」
「店長がいつも、アホを扱うのは難しいって嘆いてますよ。」

 確かに、一般企業と比べれば、風俗嬢を確保するのは、かなり難しいと思う。昔のように、借金を背負った女とか、裏社会の人間にハメられた女とか、訳ありの子ばかりなら簡単なんだけど、今の時代、あとちょっと贅沢な暮らしがしたいというような軽いノリで入ってくる子が多いから、少しでも嫌なことがあったらスグに辞めるし、ほかで良い条件のところがあれば、そっちに移ってしまう。

「ピチピチの他の店からも、回して貰ったりしてるんやろ?」
「今日も昼から、ひとり、他店の紹介で面接に来ますよ。」
「良い子やったら、ええなぁ。」
「まぁ、そうですね。」

 俺たちの商売は、箱を用意して、しっかりと客を集めて、あとは女の子たちに稼いでもらう仕事だ。まずは十分な女の子を確保しなければ、この店の状況を改善することは出来ない。内藤店長が直々に面接をするそうだから、やはり俺と同じ考えなんだろう。とにかく、力を注ぐべきは、女の子の確保だ。

「おい、田附。えらい暇そうやな。」
「いま、ちょうど落ち着いたとこです。」
「何が落ち着いたん?」
「朝の清掃です。」
「そこで話してる暇があったら、次の仕事を探せよ。」
「はい、店長。」

 何の恨みがあるのか知らんけど、俺に対する当たりがメッチャきつい。とはいえ、西城のオッサンみたいに殴りかかっては来ないから、これなら余裕だ。そんなことより、吉田に向かって偉そうに「このイベントで、一発当てるで!」と話している企画が、どう考えても単なる値下げキャンペーンで、全く面白みがない。

「そんな安売りして良いんですか?」
「まずは来てもろて、リピーターになってもらうねん。」
「それは分かりますけど。」
「お前、自分の店を潰しといて、偉そうに言うな。」

 内藤店長も、俺が経営に行き詰って店を閉じたと思ってるのか。面と向かって言われたからには、ちゃんと訂正しておいた方が良いな。

「すみません、店長。」
「なんや、田附。」
「俺がやってた店なんですけど・・・」
「なんや仕事の話と違うんか。」
「いや、店長がさっき、俺の店が・・・」
「俺、忙しいねん。ちゃっちゃと言えや。」
「俺の店、儲かってなくて閉めたわけじゃなくて・・・」
「あ、ごめん、時間切れ。面接の女の子が来たわ。」
「そしたら、また後で、お願いします。」

 俺にとって理想的な上司の姿は、佐伯店長、いや、佐伯専務、いや、佐伯さんだ。佐伯さんは、俺の話をじっくりと聞いて、少し考えて、それから的確なアドバイスをくれた。決して、条件反射的な、短絡的な回答ではなく、しっかりと先を見据えた答えをくれた。だから、俺の話を最後まで聞かず、言葉を遮って、ただ思ったことを口にする内藤店長は、かなり苦手だ。

「おい、吉田、おるか?」
「はい、店長。」
「ピチピチデラックスに電話せえ。」
「はい、誰にかけますか?」
「石川や、店長の石川。」
「はい、分かりました。」

 面接から中座してきた内藤店長は、かなりイラついた表情だ。それを敏感に察知した吉田は、店長の命令に忠実に行動する。普段なら、俺の顔を見れば、なにかしら嫌味を言う内藤店長だけど、俺の前を素通りしていった。

「もしもし、内藤や。」
「お前、うちを舐めてんのか?」
「はぁ?と、ちゃうやろ。」
「あれ、何やねん。」
「あんなもん、雇う訳ないやろ。」
「お前ところで要らんやつは、うちも要らんわ。」
「あんな不細工で、愛想のない女。なんやねん。」
「はぁ?」
「もうええ、もうええ。」
「しょうもない女は要らん。分かったな?」

 電話の相手であるピチピチグループの石川店長の声は、聞こえない。でも、だいたいの想像はつく。女の子が少ないと困っている店に、不採用にした女の子を回してあげたら、こんな電話がかかってきたんだ。もう怒りを通り越して、ただただ呆れているに違いない。俺も同じ気持ちだ。


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