この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百十四話「汚れ」

time 2016/07/04

第百十四話「汚れ」

 京都の老舗映画館「八千代館」には、定期的に通っている。新京極と裏寺町通を繋ぐ細い小道にある、知る人ぞ知るこの映画館は、いわゆるハッテン場と呼ばれる場所になっている。男性との出会いを求める男性が集まる夜の社交場と言えば、分かってもらえるだろうか。

 この映画館では、ポルノ映画を専門に上映しているのだが、映画を観ようと、ここを訪れる人がいるのかどうか、俺は知らない。少なくとも俺は、出会いを求めて、ここに来ている。

「前にも会ったことあるやんな。」
「うん、そう。わりと来てる。」
「俺、ヒロキ。よろしく。」
「はじめまして。わたし、アキコ。」
「今晩、まだ相手は決まってないの?」
「うん。」

 アキコって名乗っているけど、もちろん男だ。俺よりも五つは年下だから、おそらくまだ二十代だと思う。仕事帰りに直行してきたらしく、普通のスーツ姿で、スカートを履いているわけでもなく、口紅を塗っているわけでもない、ただの好青年といった出で立ちのアキコだ。

「このまま、ホテルで良いんかな。」
「はい、喜んで。」

 男同士の性的な絡みほど、道徳的に汚らわしいものは、この世に無いと、俺は思う。この最上級の汚らわしさに、俺は性的な興奮を覚える。汚れたい。とにかく汚れたい。背徳感に満たされたい。俺をさらに汚してくれる相手を、俺は探し続けているんだ。

 自分の店ピンクデザイアを閉めて以来、次の仕事にも就かずにフラフラしている俺を、サエコは見て見ぬふりしてくれている。一家の大黒柱が無職なんだから、本当は、すごく不安だと思うけど、「しっかり休むことも大事やわ。」と言ってくれている。この優しさというか、包容力というか、楽天的な性格が、好きだ。

 でも、ずっと一緒にいるサエコには、性的な興奮は一切、感じない。

「アキコ、ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとう。良かったよ。」
「俺も、良かった。」

 実は一度、結婚前のサエコにも、俺のために“汚れて”くれないかと、ある提案をしたことがある。具体的なプランを考えて、すぐにでも実行できる状態だったのに「そんなの、私、嫌やわ。」と一蹴されたから、諦めざるを得なかった。だから、俺は、興奮の対象を家庭の外に求めている。言い訳をするつもりはないけど、そういうことだ。

「ヒロキさんって、彼氏いるの?」
「おらんよ。」
「わたし、ヒロキさんが好きになったみたいやねん。」
「そうなんや。ありがとう。」
「わたしやったら、アカンかな。」

 残念ながら、アキコの期待には応えられない。俺にとっての男との交わりは、あくまで、その瞬間の快楽を満たすものだ。まさにプレイと呼ぶのが相応しい。だから、彼氏という存在になって、お互いに関係を深めようとは思わない。そこには何の興奮もないねん、ごめんな、アキコ。

 佐伯専務が、まだ店長だった頃に、一緒に連れて行って貰ったオカマバーが、俺が男を知った記念すべき場所だ。ママと一緒にホテルに行った夜のことは、今でも鮮明に覚えている。既に佐伯さんは専務ではなく、ピチピチグループから去ってしまい、京都近郊で悠々自適な生活をしているんだけど。

 そういえば昼間、久しぶりにピチピチグループの人間から、電話がかかってきた。俺がまだピチピチホームで店長をしているときに、社員として採用した栗橋という奴なんだけど、こいつが今、グループの専務になっているらしい。あの佐伯専務の居たポジションに、あの栗橋が就いているとは、時代の流れは早い。

 久しぶりに一緒に飲みに行こうっていうことになって、祇園のクラブで栗橋と会う約束をしたんだけど、俺に振られた形になったアキコが、寂しそうな顔をしているのを見ると、なんだか愛おしくなってきた。ごめん、栗橋。

「アキコ!もう一回やろか。」
「ええ、良いの?」
「当たり前やん!気持ちええもん!」

 こうして、無職の男の一日は、過ぎていった。今日も、最高の一日やったで。


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