この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第九十九話「大阪組」

time 2016/03/08

第九十九話「大阪組」
 山下店長の新体制の下、店の雰囲気はとても良い。通常営業となった初めての週末も、風俗雑誌を片手に来店するお客様が多く、女の子のなかには早番だけで十名を相手にした子もいた。待合室でアルバイトの松木君が、スムーズに接客しているのを見て、安心した。でも、事件は、明けて月曜日の夜に起こった。

「すみません。メイちゃん居ますよね?」
「いや、お客様、何度も足を運んでいただいてますが。」
「ちょっと女の子の写真を見せてくれるか?」
「申し訳ないですけど、メイちゃんという女の子は。」
「お、山下やんけ!やっぱり、お前か。」

 男の顔を見て、山下さんが店の奥に逃げ込もうと一瞬、ひるんだそぶりをみせたけど、何とか踏みとどまった様子だ。でも、眼球が周りをキョロキョロと見るように動き、手もアワアワと何かを探すような仕草をする。どう見ても、このふたりは過去に、何かしらの関係があったのだろう。

「申し訳ございませんが、事務所の方で、お話をしませんか?」

 

 と、俺が言おうとした瞬間、男の方から「事務所で話そうや。三階やろ。」と言った。おかしな人間を、中に通すのには抵抗があるけど、さすがにお客様を接客する場所で話せるような要件ではなさそうだ。階段を昇りながら、山下さんに思い当たるフシがあるのか無いのか確認しようと思ったけど、動揺していて、それどころではない。

 

「あんたがオーナーさんやねぇ?」
「はい、田附と言います。」
「話の出来そうな人やらか、率直に言うわな。」
「はい。そうして貰えた方が、良いですね。」
「こいつがな、うちの店の女の子を引き抜きよってん。」
「はぁ?」

 

 当然、思い当たるフシはある。ミナちゃんと、メイちゃん、そして、ヤヨイちゃん。いわゆる大阪組で、山下さんが連れてきた女の子たちだ。一方的に話を聞いていても現実は分からないから、山下さんの言い分も聞こうと、隣を向いた瞬間、山下さんの顔が吹っ飛んだ。骨と骨がぶつかる乾いた音がした。さらに男は、山下さんの身体に飛び乗って、顔面に向かって、五発ほど拳を叩きつけるように殴った。

 

「話し合う気がないんなら、警察を呼ぶで。」
「ごめん、ごめん。久しぶりの再会で、つい。」
「とりあえず、座ってください。」
「おう。」

 

 大阪のミナミで風俗を経営している人間に頼まれて来たというこの男の話によると、もともと山下さんは、その店で働いていて、急に京都に引っ越すからと言って辞めたかと思ったら、そのあとを追うように、何人もの女の子が店を辞めていったらしい。

 

「それ、いつの話ですか?」
「だいたい一年ちかく前のことやろ。」
「関係ないですやん。うちの店とは。」
「あぁ?」
「うち、店を開けたの、一週間前ですよ。」
「そら、そやけど。」

 

 この業界、みんな揃って、女で飯を食っているから、こういうトラブルは少なからずある。でも、店を辞めたのが一年前で、うちで働き始めたのが一週間前、これを引き抜きだと言われたら、たまったものじゃない。いつ俺に向かって拳が飛んでくるかも分からないから、めっちゃ怖いけど、とにかく俺の主張だけは伝えなければならない。

 

「ちょっと無理がありませんかね?」
「でも、ここで山下が働いてるんやろ?」
「そうです。昔、お世話になったひとで、手伝ってもらってます。」
「この山下に、お世話になったん?」
「ピチピチホームっていう店で、一緒でした。」
「え、あ、そうなんか。」

 

 俺の話を聞いて納得したのか、思いのほかあっさりと男は「ほな、帰るわ。」と言って、席を立った。本当は、見送りなんかしたくないけど、店内で暴れられたらたまらないから、念のため、エントランスまで一緒に行く。敢えて頭を下げなかったけど、男も振り返ることなく、高瀬川沿いを歩いて行った。

 

「あのオッサン、帰ったで。」
「オーナー、ご迷惑をお掛けしました。」
「もう、ションベンちびりそうやったわ。あぁ、こわ。」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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