この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第九十八話「昇格」

time 2016/03/07

第九十八話「昇格」
 オープン記念イベントの興奮が未だに残る四日目、朝から夕方までが三十分五千円、夕方以降は二十時までが六千円、それ以降からラストまでが七千円という通常営業に切り替えたが、それでも、平日としては満足な数のお客様に来ていただいている。二十二時を過ぎて、少し落ち着いてきたところで、山下さんに声をかける。

「ほんま、山下さんがいてくれて助かったわ、三日間。」
「すごい人やったからなぁ。」
「これからも、よろしくお願いします。」
「うん、ありがとう。」
「それでな、山下さん。」
「ん?なに?」
「店長として、頑張ってもらえるかな。」

 もともと俺に風俗の仕事のイロハを教えてくれた人だから、この人には頑張って欲しい。思ったことを口に出すのが下手で、何かと損をしているみたいだけど、下の人間に対する面倒見が良いし、女の子のケアも、しっかりとやっている。俺としても、自分が店長として前面に立っていると他の仕事が出来ないから、一歩引いた視点から、自分の店が見たい。

「俺なんかに出来るんかな、店長って仕事。」
「みんな、山下さんを慕ってますから、いけると思いますよ。」
「ありがとう。田附さん。」
「だから、もう、さん付けで呼ぶの止めてください。」
「あ、うん。」

 話が決まれば、すぐに動く。そろそろ、お客様の入り次第では、何人かの女の子を帰すところだけど、その前に、山下さんが明日から新店長になることを伝える。少し疲れ気味だった女の子たちの表情が明るくなり、山下さんに向けてパラパラと拍手が聞こえる。

「そしたら、店長のことは明日から何て呼べば良いの?」
「あ、俺?」
「そうそう。」
「そうやな、俺は、オーナーやな。」

 明日の昼間には、男性スタッフの面接が三件、入っている。山下さんにも面接に入ってもらいながら、早番と遅番のマネージャー候補を採用しなければならない。女の子の確保に必死で、男の方のスタッフを集める作業が遅れていたけど、山下さんを店長に据えることで、一気に体制が整いそうだ。
 
 みんなから、店長、店長と声をかけられ、イジられている山下さんを置いて、俺は少し早めに店を出る。この三週間ほど、店のオープン準備が忙しくて、ほとんど顔を出せていなかったル・シャネルに向かう。サエコが働いている姿を、たまには見たい。

「田附さん、お久しぶりです。」
「こんばんは。」
「奥の席が埋まってしまっているんですが。」
「最近、来れてなかったし、どこでもええよ。」
「かしこまりました。」

 席に着いた途端、ドタドタとした足音を立てて、完全に泥酔して裸足のサエコが走ってきた。何を言うてるのか分からんけど、俺が来たことを喜んでくれているみたいだ。

「ヒロキさん、店に来てくれたん。お久しぶりやんね。」
「そやな。ごめんな。」
「ええの、ええの。今日、来てくれたのが嬉しいねんから。」
「そうか。ナニ飲も?」
「何でも良いけど、シャンパンやな。」
「ほな、ドンペリ行こ!」
「はーい、ヒロキさんからドンペリいただきました!」

 こんだけ酔っ払っていても、俺と同棲しているような素振りは、一切出さない。僅か数ヶ月だけど、もう完全にキャバ嬢として一人前になっている。

 ル・シャネルの営業が終わるまで、サエコに言われるがままに酒を入れて、一緒に店を出る。いわゆるアフターを装っているけど、泥酔のサエコを連れていくわけにも行かないから、近くでタクシーに乗って、そのまま家へと向かう。

「ヒロキさん!」
「なんやねん、急に大きい声、出すなや。」
「シャンパンもう一本、飲もうよー!」

 どうやら、サエコはまだ店にいるつもりらしい。この底抜けに明るくて、素直で、表裏のない性格は、俺を安心させてくれる。ずっと、この子と一緒に居れたら良いなぁって思う。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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