この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第九十六話「お客様」

time 2016/03/03

第九十六話「お客様」
 ピンクデザイア営業二日目は、土曜日。オープン前から店の前に数人が並び、昼過ぎから十五分待ちくらいの混み状況になり、女の子たちはフル回転。昨晩、山下さんと熱く語っていたアルバイトの長谷川君が朝から来て働いている。早く仕事を覚えたいんだとか。だから、アルバイトも松木君と二人体制で、お客様の入れ替わりの時間のロスを減らす。本当に店内が活き活きとしていて嬉しい。
 
「リミちゃん、昨日のお客様がまた来てくれはったで。」
「え?どの人やろ?」
「白のシャツに黒のジャケットのかっこいいオジサン。」
「あ、タカオさんだ。」
「ちゃんと名前を覚えてるんや。偉いな。」

 リミちゃんっていうのは、サトミちゃんの源氏名。サトミっていう名前を音読みしただけのシンプルな名前だ。昨日の夕方、帰る時には疲れた表情をしていたから、ちょっと心配していたけど、今日も元気に出勤してきて、満面の笑みでお客様を迎えている。オジサン受けしそうな子だとは思ってたけど、早速リピーターを掴むとは、驚いた。
 

「店長、エタノールが無くなりました。」
「もう無くなったん。使い過ぎやで。」
「お客さんが、私の全身にいっぱいかけたから。」
「そうなんや。それ貸して、補充したるから。」
 
 うちの店では、まず来店されたお客様に女の子を選んでもらったあと、爪が伸びていないかを確認して、伸びていたら爪切りを渡して切ってもらう。あと、手をエタノールで除菌してもらう。さらに、接客のフラットシートにご案内する前に、口を大きく開いてもらって、口臭対策と除菌を兼ねたスプレーを噴射する。だから、女の子が常に携帯しているエタノールのスプレーは、ほとんど使う必要がない。それにしても、女の子の全身にエタノールをかけて、何が面白いねん。
 
 改めて思うけど、ピンサロって、金がかからない商売だ。女の子の給料に関しては、一部の最低保証をつけている女の子以外は完全に成果報酬だから、売り上げから支払えば良い。準備期間にかかったお金が、だいたい千五百万円くらいで、家賃と光熱費が合わせて毎月二百万円以内には収まるはず。店が人気になって、売り上げが上がれば上がるだけ、俺の取り分が増えるねんで。なんやこれ、最高やん。
 
「はい、いらっしゃいませ。」
「メイちゃん、いますか?」
「えーっと、メイちゃんって子は、いませんけど。」
「そうですか。ありがとう。」
 
 昨日も来てくれたお客様だろうか。メイちゃんって言えば、大阪組のひとりで、うちではサツキの名前で働いている子なんだけど、本名での出勤確認の問い合わせに対して、馬鹿正直に答えていたら風俗業界では生きていけない。いないと言ったら、すぐに納得して帰って行ったのも、ちょっと怪しいな。
 
「山下さん、さっき入ってきた男のひと、見た?」
「いや、見てへんかったわ。」
「あ、そう。」
 
 時々、不思議な来客が混ざるのも、風俗だから仕方がない。俺としては、どんな人でも、日々の仕事とかの疲れを癒すためにピンクデザイアに来てくれて、女の子たちと日常生活を忘れたひとときを過ごしてくれたら、それでええねん。ほら、今ちょうど店を出ていくお客様も、入ってきた時と違って、めっちゃ笑顔やん。それだけで、ええねん。
 
 と思ってたら、お客様と入れ違いに、観葉植物の植木鉢を両手で抱えたオッサンが入ってきた。
 
「え、いや、なにこれ?」
「パキラっていう木や。」
「いや、植物の種類を聞いてるんちゃうねん。」
「間違いなくお届けしましたで。」
「いや、こんなん注文してないって。」
「代金は、月末に係の人間が取りに来まっさかい。」
 
 完全に招かざる客だけど、これは仕方がない。観葉植物の納品書には、うちで使っているオシボリと同じ業者の名前が書いてある。つまり、アレのナニだ。こんなのが次々と届いたら困るけど、一本くらいなら、受付の前の飾りとして使えば良い。
 
 でも、こんなもんが一本だけで、毎月三万円ってどういうことやねん!

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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