この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第九十三話「ピンクデザイア」

time 2016/02/29

第九十三話「ピンクデザイア」
 珍しく気合の入った表情を浮かべて、「いよいよやな。」と何度も繰り返し言う山下さんの姿を見て、俺まで緊張してきた。店の場所を確認する電話が、朝から五回くらいかかって来たから、今日の客はゼロではなさそうだ。ピンサロを開業しようって決めてから三ヶ月、夢中でやってきた。いよいよ、ピンクデザイアがオープンやで。

「いらっしゃいませ。」
「はい、こちらへどうぞ。」
「順番にご案内させていただきます。」
「いらっしゃいませ、ようこそピンクデザイアへ。」
「爪のご確認をさせてください。」
「ヨシカさんです。どうぞお楽しみください。」
「大変、申し訳ございません。」
「いらっしゃいませ。」
「こちらの女の子なら、今すぐにイケますけど。」
「はい、ありがとうございました。」
「いらっしゃいませ。」

 めっちゃ来る。オープン記念イベントとして、全時間帯二千五百円という超破格の特別料金を設定したとは言え、朝からずっと客足が止まらないのには、我が店ながら驚くばかりだ。わざわざ帰り際に、俺のところに来て「あの平らなソファ、めっちゃ良いですね。俺、常連になりそうや。」って声を掛けてくれたお客様もいた。良かった。俺の考えは、間違ってなかったわ。

 思い返せば、松山の高校時代に、老け顔なのを良いことに、堂々と大人に混じってピンサロ通いしていたのが、もう十年以上前のことだ。俺の相手をしてくれるのは、汚いオバハンばっかりやったけど、毎回、ワクワクしながら店に行ってた。あの頃は、まさか自分がピンサロの経営者になるとは思ってなかったけど。

 今日、俺の店に来てくれたお客様のなかにも、もしかしたら初めて風俗に来たという方もおるかもしれん。ドキドキしながら入店して、待合室に通されて、女の子の写真を見せられて、不安と興奮の入り混じった初体験をしてくれてたら嬉しい。日々、繰り返し繰り返し面接して選んだ女の子たちのことを、気に入ってくれたら、もっと嬉しい。

「はい、いらっしゃいませ。」
「ヒロ兄、忙しそうやん。」
「なんやねん、吉江か。」
「なんやねんって。酷い扱いやな。」
「なにしに来たん?」
「差し入れを持ってきてんけど。」

 もう十五時を過ぎているのに、まともに食事をとれてなかったから、おにぎりの差し入れは、正直、めっちゃありがたい。そういえば、こいつがこの物件のことをオススメしてくれたからこそ、俺もやる気になって、ここまで来れたんやったな。吉江って、仕事も大して出来ないお調子者のデブだけど、俺のことをちゃんと見ててくれる良いやつやな。ありがとう、吉江。

 女の子の待機部屋にも、吉江のおにぎりを届けて、「早番の営業はもう少しやから、あと何人かのお客様に精一杯の接客をしてや。」と、客待ちの三人の女の子を励ます。今日の早番の出勤は十二人だから、九人が接客中だ。俺の自慢のフラットシートが、フル稼働してるやん。

「店長、お菓子、買ってきて欲しいねんけど。」
「どんなんが欲しいの。」
「あのー、新しく出て、今、テレビで宣伝してるやつ。」
「えーっと、ちょっと待ってな。」

 俺、探偵ナイトスクープは好きやから、たまに見るんやけど、そんなにテレビばっかり見てないから、CMで放映されてるって言われても、何のことか分からんわ。若い女の子と話が合わなくなって来てるのって、やっぱり俺が年をとったからかな。とりあえず、即席の買い出し係を連れて、もう一度、女の子の待機部屋に行く。

「ジュンコさん、こちら買い出しボーイの吉江くんです。」
「あ、どうも、買い出しボーイの吉江です。」
「え、お菓子のこと、頼んで良いんですか?」
「そうやで、こいつは、お菓子の専門家やから。」
「はい、買い出しボーイに何なりとお申し付けください。」

 ジュンコっていうのは、富山出身のインテリ大学院生のチズエちゃんのこと。初めての風俗の仕事だから、講習の時には、かなり表情が固かったけど、俺のマイの話に甚く感銘してくれて、「わたしもマイさんみたいに心に残る仕事がしたいです。」と目をうるませながら応えてくれた。だから今、俺、この子がお気に入りやねん。

「買い出しボーイ、出動します!」
「ありがとうな、吉江。」
「任せてや。ピンクの欲望王のためなら何なりと!」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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