この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第九十一話「ウチら」

time 2016/02/25

第九十一話「ウチら」
 ピチピチホームの頃から、既に三年以上の付き合いになる広告代理店の営業マンを呼び出した。広告代理店と言っても、電通とか博報堂とかアサツーとか大手の会社じゃなくて、紙媒体を得意としているところ。
 
「俺、クラブを始めることにしてん。」
「え?祇園のクラブですか?」
「そうやねん。それで、ホステス募集したいねん。」
「媒体は、どういうのをお考えですか?」
「女の人が読む週刊誌みたいなん、あるやん?あれ。」
「女性自身とか、女性セブンとかですかね。」
「そう、それそれ。」
 
 風俗専門の求人広告だけでは十分な数の女の子を確保できそうにないから、知り合いの祇園のクラブのママに協力してもらって、全国発売の女性向け週刊誌に求人広告を載せることにした。さすがに、堂々と「風俗嬢募集」とは書いた広告は掲載してもらえないから、ホステスの求人に応募してきた女の子を口説いて、うちで雇うという作戦だ。
 
 小さな小さな広告枠で八万円もするんだけど、地元の京都新聞や滋賀新聞の折り込みの求人広告とか風俗専門求人誌とは違う読者層が狙えるから、たぶん効果があるはず。ちょうど協力してくれるクラブでも、新しいホステスを欲しがっているので、俺が口説き落とせなかった女の子は、そっちで採用することが出来るし、我ながら良い仕組みだ。さて、うちのオフィスに戻って、今日も面接だ。
 
 三十九人目は、ミナコちゃん。この子あたりから、山下さんが電話対応をした女の子。山下さんのメモには「電話の話し方は元気。彼氏がいる。」と書いてある。いったい電話でどんな会話をしたんだろうかと不思議だけど、メモの通り、元気な女の子。でも、岐阜県から引っ越ししてくるらしく、契約金のようなものが欲しいと言い出したので、不採用。もう、山下さん、彼氏がいるかどうかじゃなくて、こういう重要なことを聞いといてよ。
 
 契約金っていうのは、おそらく、バンスのことを言っているのだろう。たぶん風俗業界独特の言葉だと思うけど、バンスと言うのは、女の子が店から前借りする仕組みのことだ。返済は給料からの天引き。でも、バンスをする女の子に限って、仕事の態度が良くなかったり、途中で急にいなくなったりするから、基本的に俺はバンスを希望する子を採用したくない。
 
 四十人目は、マイコちゃん。システムエンジニアという何だか良く分からない仕事をしていて、残業が無い日のアフターファイブを活かして、お金を稼ぎたいそうだ。買いたいものとか、旅行したい場所とか、具体的なものは特にないけど、男に頼らずに生きていくためには蓄えが必要だと力説している。採用。
 
 四十一人目は、ナツミちゃん。七つの海と書いて、ナツミちゃん。お父さんは高知県で、漁師をしているらしい。劇団に所属している女優のタマゴで、生活費を稼ぐために応募したと、山下メモに書いてある。ただ、ちょっと深く話を聞いてみると、彼氏も同じ劇団に所属していて、彼に貢ぐ金が欲しいと言うのが本音のようだ。公演のチケットを彼女に押し付けて、自分は演技の練習に没頭しているんだから、なかなか悪い彼氏やな。別れた方が、ええで。採用。
 
 次の面接まで、まだ二時間くらいあるから、今日の彼女を捕まえるために出会い系サイトを開こうとしたら、山下さんが女の子を二人連れて、三階に上がってきた。
 
「この子らも、面接したってもらえますか?」
「ええけど、どこから見つけて来たん?」
「大阪で知り合った女の子やねんけど。」
「風俗の経験はあんの?」
「ふたりとも、大阪のピンサロで働いてた子やねん。」
 
 ピチピチホームを辞めた後、山下さんがどこで何をしていたのか詳しく聞いていないけど、最初は名古屋に行って、それから大阪に引っ越したことだけは知っている。そのうち、本人が話したくなったら、勝手に話してくれるはず。この業界、あまり個人的なことを詮索されたくない人間が多いから、わざわざ自分から細かいことを聞くのは良くない。
 
「ウチら、山下さんにメッチャお世話になってて。」
「へー、そうなんや。」
「ほんま、山下さんがおらんかったら、ヤバかったから。」
「そうなんや。」
「山下さんと一緒に働けるの、メッチャ嬉しいし。」
「あの、二人の名前を教えてくれる?」 
「ウチがジュンで、この子がメイ。二人とも山下さんにお世話になってるから。」
 
 山下さんのことを慕っている子がいることに驚いたけど、考えてみればたしかに俺がアルバイトで入店したときにも、事細かに色んなことを教えてくれたし、山下さんって面倒見が良いから、こんな風にして懐く子がいてもおかしくないな。ふたりとも、なかなか可愛い顔してるし、経験者なのも助かる。しかも、あと三人くらい、友達を紹介してくれるらしい。
 
 求人広告からの普通の面接の子と、出会い系サイトで捕まえた子と、山下さんの紹介の子たちで、なんとか二十人近くになった。ピチピチホームと違って、まだ俺の店は開店さえしてないし、ピンサロだから給料も安いし、想像以上に女の子集めが大変だけど、なんとか形になってきた。あ、そうだ、今日、もう一人、面接の子がおった。
 
  四十二人目は、ナツミちゃん。大学の二回生。でも、二浪しているから二十二歳。オフィスに入って来たとき、かわいい子が来たなと思ったけど、何を聞いても「はい。」としか答えないし、途中から涙目になっているし、本人の気持ちの整理がついていないようだから、俺の方が申し訳ないような気分になってきた。一応、「また、いつでも連絡ちょうだい。」とは言って帰したけど、不採用。
 
 まぁ、そんなに都合よく、次々と女の子が見つかれへんわな。明日も頑張ろう。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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