この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第八十一話「ザウルス」

time 2016/02/11

第八十一話「ザウルス」
 ブレーカーを探すから待ってくれと吉江が言うけど、もう待ってられないので、自分でブレーカーを探して、電気を通す。営業用の薄暗い電球ではなく、蛍光灯を点けて、入り口から順番に、建物全体を見て回る。カギを開けただけなのに、ひと仕事終えたような満足げな顔をして、タバコに火をつけようとしている吉江の手を引っ張って、一緒に見て回る。

 一階の入ってスグのところが受付になっていて、その隣に、長椅子が五脚。ここが待合室として使われていたはず。あとは、カーテンで隠すように、申し訳程度のキッチンとトイレがある。ピンサロは、法律的には飲食店の延長っていう体になっているから、必ずキッチンを設置しなければならない。

 二階には、背もたれの高いソファーが並べられていて、ボックス席が十二組ある。ここが、この店の稼ぎを生んでくれる部屋だ。ありがたいことに、二階にも、ちゃんとトイレがある。

 三階は、無味乾燥としたオフィスで、ちょうど部屋の半分くらいのところがカーテンで仕切れるようになってて、鍵のかかる三列五段のロッカーが三つ置いてあるから、ここを女の子の更衣室に使ってたんだな。ってことは、接客に使えるのは二階にあるボックス席の十二組だけか。

 月の家賃は、百五十万円。保証金が、家賃の六か月分。吉江は、相場よりもちょっと高いから、交渉はできると言っているけど、正直なところ、風俗の儲けから比べたら、僅か数万円の家賃の差なんて、あまり大したことない。家賃に関しては、大家さんの言いなりで払っておいた方が、気分よく貸してくれるから良いような気もするし。

「やっぱり三階まで客を上げるのは難しいよな。」
「俺は、嫌ですね。」
「お前は、デブやからやろ。」
「ヒロ兄さん、酷い言い方しはるわぁ。」

 こいつ、俺のことを全然、客扱いしてくれてへんやん。元々は、こいつのオヤジさんと知り合いで、あとから吉江を紹介されたから、今度、オヤジさんに会ったときには、絶対に文句言うたんねん。まぁ、そんなことより、ピンサロの営業で、ボックス席が十二組っていうのは、どうなんだろうか。これまでに行ったことがあるピンサロを頭に思い浮かべながら、実際の営業をイメージしてみる。

「受付を済ませて・・・ここで待って・・・」
「いらっしゃいませ。」
「いや、お前は出てこんで、ええねん。」
「すみません。お邪魔しました。」
「それから、ソファーに通されて、女の子が隣に座って・・・」
「あら、ヒロちゃん、ご無沙汰。」
「もう、ええわ。」

 自分が客だと想像しながら店内を歩いてみると、色んなことに気付く。常に客の視点で店を見るのは、ピチピチホームの店長時代にも心掛けていた俺のスタイルだ。ソファ席に座ってみると、かなり窮屈に感じる。席数はあるけど、稼働しないボックス席が出て来るな。それから、ひとつ思い出したことがある。

「あのさー、ここって前、ザウスとかいう名前ちゃうかった?」
「えーっと、ザウルスです。」
「そうそう、恐竜みたいなオバハン揃いのザウルス!」
「ってことは、来たことあるんですか?」
「あるある。思い出した。」
「さすが、ピンクの欲望王!」
「誰が、ピンクの欲望王やねん!」

 吉江と遊んでいるのも楽しいんだけど、さらにもうひとつ思い出した。吉江に向かって「お前、なんか重要なこと、忘れてない?」と言って、一階の奥まで歩いて行って、さっきまで物置だと思い込んでいた扉を開ける。

「え?階段?」
「お前、不動産屋やろ。把握しとけや。」
「すみ、すみません。」

 そうそう、去年の夏くらいに、ここに来たときに、二階のボックス席に通されたけど、トイレに近くて何だか匂うから、他の席に移動できないかと男性スタッフに言ったら、通されたのが地下の部屋だった。なんかヤバいところに連れて行かれるのかと、かなりビビってたから、その時のことは鮮明に覚えている。

「ほら、地下にも十二組あるやん。」
「さ、さすが、ピンクの名探偵や!」
「もう、ええわ。なんやそれ。」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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