この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百十一話「辞職」

time 2016/03/24

第百十一話「辞職」
 山下さんが、店を辞めたいと言ってきた、ついさっき。女の子の入れ替わりが激しくて、気苦労が絶えないとは言え、売り上げは順調に伸びているから、何とか頑張って欲しいとは言ったけど、既に腹は決まっているようで、俺の言うことに頷きはするけど、どうも響いていない様子だ。
 
 正直なのところ、この半年くらい、店の中でどのようなことが起こっていたのか、俺自身が全てを把握し切れていない。それどころか、山下さんから話があると言われても、十分な時間を取れずにいた。だから、山下さんが辞意を固めるに至った経緯を、俺なりに想像することさえ出来ない。悪いことしたなぁ。
 

「もしもし、ご無沙汰してます。西島です。」
「え?だれ?」
「西島です、ピチピチホームでアルバイトしてた。」
「おお、久しぶりやな、どうした?」
 
 俺の古巣であるピチピチグループとは、トップである会長を除いて、今も良好な関係だ。いや、会長に対しても、月々の家賃を納めているから、みんなと良好な関係だ。とはいえ、アルバイトの西島くんから電話がかかってくるなんて、珍しい。何の要件やろ。
 
「うちの店で余った子なんですけど、要りますかね。」
「え、うん。ありがとう。」
「そしたら、電話で連絡して、それか・・・」
「いや、ちょっと待って、あのさー。」
「あ、はい、田附さん。」
「なんでアルバイトの君が、俺に電話してくるわけ?」
「いや、俺、今はピチピチホームの店長なんですよ。」
「え、お前が?」
 
 風俗の世界は、実力が全てだから、世間一般の会社とは違ってスピード出世することも可能だ。この俺も、あれよという間に、アルバイトから店長まで昇格したから、自分の身を持って経験したことだけど、それにしても、あの西島くんが店長とは、一体どうなってんねん。
 
「佐伯専務が、店長昇格を認めたってことやんな?」
「いや、専務、辞めはりました。」
「は、はぁ?」
 
 もう、訳が分からん。西島くんのスピード出世どころの話じゃない。あの佐伯専務が、ピチピチグループを去っていた。何日か立て続けに佐伯専務からの飲みの誘いを断って以来、このところは少し疎遠になっていたんだけど、それにしても、まさか。
 
「冗談ちゃうやんな?」
「こんな冗談、おもろないでしょ。」
「そら、そうやけど。」
 
 西島くんには「あとで電話を掛け直すから。」と言って、急いで電話を切って、佐伯専務のケータイに電話してみるけど、出てくれない。きっと数分以内にはコールバックがあるだろうからと、手に握ったケータイを見つめながら待っていたけど、結局、俺のケータイが鳴ることは無かった。
 
「山下さん、今日、俺、現場に入るわ。」
「事務仕事は、ええんですか?」
「今日は、受付におりたいねん。」
 
 俺が初めてピチピチホームで働いたとき、店の中の仕事を教えてくれたのは、この山下さんだった。俺の頭をボコボコと殴る西城のオッサンに邪魔されながらも、一生懸命に頑張っていた自分が懐かしい。そういえば、あのときも山下さんは、急に店を辞めて、どこかに行ってしまったな。一箇所に、長く勤めることが出来ないタイプなのかもしれん。
 
「懐かしいですね、ピチピチホームの頃。」
「そうやな。田附さんがアルバイトやったもんな。」
「そうですよ。」
 
 こういう他愛もない会話を、山下さんとするのは、何か月ぶりだろう。ピンクデザイアのオープニングイベントが終わって、店長になったあとの山下さんとは、仕事の話しかしてなかった気がする。オーナーと店長の関係って、もっと違う形の方が良かったかもしれんな。
 
「山下さん、さっきの話、もうちょっと待ってもらえますか?」
「俺の考えは変わらんで。」
「いや、俺自身が考えなアカンことがあるんで。」

会社を辞めて後悔しない39の質問
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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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