この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百十話「忙殺」

time 2016/03/23

第百十話「忙殺」
 祇園と川を一本隔てた木屋町は、若者が集まる新しい歓楽街というイメージだけど、やっぱり古くから営業している老舗の飲食店も、数多くある。俺たちのような風俗営業の人間は、何とか地域の人たちと共存共栄したいと望んでいるけど、やっぱり逆の立場から見れば、完全に邪魔者だ。
 
「田附さん、いつも使ってくれてありがとうな。」
「いや、ほんま大好きやねん。この煮物。」
「ええもん使って、ええもん作ってるからな。」
「日本酒にも合いますわ。」
「高いお酒を頼んでくれてるもん。何を食べても美味しいわ。」
 

 ピンクデザイアの男性従業員たちで木屋町の清掃活動をしてみたり、俺がこうして木屋町の居酒屋を頻繁に使ったりして、地域の人たちと仲良くしようと試みている。京都の人たちだから本心は分からないけど、こちらから積極的に近づいていけば、あからさまに無碍に扱うような人はいない。俺、みんなと仲良くしたいねん。
 
「来週、地域の寄り合いがあるけど、来はるん?」
「いや、そんなん知らないですけど。」
「あそこの福富さんで、夜七時からやで。」
 
 ここの女将さん、俺に惚れてるんちゃうかなと思うくらい、色んなことを教えてくれるし、手伝ってくれる。京都の役所から改善命令の通知が来ている大きな看板の件でも、不満を言っている近所のオジサンたちに「あれくらい、ええやんか。」と言って回ってくれているみたい。ずっと古くから住んでいる人たちは、同じく古くから付き合いのある人にしか耳を貸さない。ほんま女将さん、ありがとう。
 
 一方で、オープンから一年半も経つと、店の女の子たちの顔ぶれは、ほとんど変わってしまった。山下店長を悩ませていた女の子たちの派閥争いも、新しいメンバーが増えてくることによって、今のところは落ち着いている。またすぐに争いの種が出来て、中核となる女の子が出て来るだろうけど、男性従業員たちも色んなことを経験したから、次はもう少しマシな対応が出来るはず。
 
 冷静にピンクデザイアの体制を見てみれば、最も弱いのがオーナー、つまり俺かもしれん。近隣の人たちとの付き合いでも、経理のことでも、次から次に発生する問題や作業に、上手く対応できていない。カオルコが産まれたからじゃなくて、仕事が多すぎて、夜遊びの回数が圧倒的に少なくなってるし。こんなん、嫌や。
 
 佐伯専務からも、何度も電話を貰ってるのに、全く飲みに行けてない。本来なら、あらゆる予定を断ってでも、飛んでいかなければいけないはずなのに。さっきも電話があって、「田附社長、本日のご予定はいかがでしょうか?」って誘ってもらったけど、「本当に、ごめんなさい。忙しくて行けません。」と断った。どうしても、出れない。
 
「オーナー、すみません。」
「ちょっと、後にしてくれる?」
「いや、今すぐじゃないと。」
「なんやねん、ちょっと待っといてや。」
「は、はい。」
 
 オフィスで机に向かっている時には話しかけないでくれと言ってるのに、いつまで経っても分かってくれない。苦手やけど、頑張ってやってんねんから、とにかく集中させてや。毎日の売り上げが上がるのは嬉しいけど、売り上げが上がれば上がるほど、また書類に書かなければならないことが増えるのかと思うと憂鬱になるくらい、ほんまに苦手やねん。
 
 今日は、店が開く前から来て、集中して作業しようと頑張ったのに、やっぱり夜までかかってしまった。面接の対応で、一時間ほどは取られたけど、あとはずっと座ってたはずやのに、これだけしか進んでないやん。まぁ、仕方がない。また、明日も頑張ろ。
 
「今日は、帰るで。」
「さっき、サエコさんが来てはりましたよ。」
「え?何で言うてくれへんの、アホちゃうか!」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。


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