この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百六話「とりあえず」

time 2016/03/17

第百六話「とりあえず」
 これは、間違いなくあの人の仕業だ。山下さんに呼び出されてピンクデザイアに駆け戻ると、大量の観葉植物がエントランスを埋め尽くしている。二十本か、それ以上。
 
「なにこれ?」
「名前は分からないですね。」
「いや、だから、木の種類は聞いてないって。」

 アルバイトの二人を呼んで、とりあえず、三階のオフィスに植木鉢を運び込んでもらう。もう業者のオッサンは帰ってしまってるし、そろそろ日付が変わる時間だから、今日は何も出来ない。

 思いがけず深夜の森林浴をしていたら、今度はアルバイトの長谷川君が血相を変えて、「直ぐに来て下さい。」と俺を呼びに来た。

「誰と誰なん?」
「サツキさんと、ミチカさんです。」
「なにで揉めてんの?」
「分からないですけど、山下さんが二人の間に入って、話を聞いてます。」

 待機部屋で普段座ってる席に、別の女の子が座っているとサツキちゃんが文句を言って、それに口を挟んだミチカちゃんと揉めることになったらしい。途中ですれ違った女の子たちが興奮しながら俺に話したことを総合すると、一時は、四、五人の女の子たちが入り乱れて掴み合いの喧嘩になったようだ。職場で暴れるの、やめてくれへんかな。

 店内には爆音でUSENの音楽が流してあるから、少しくらい大声を出しても、お客様には聞こえないだろうけど、まだ興奮状態の二人を、とりあえず、三階に連れていく。階段を昇りながらも、二人の罵り合いは続き、なんだか悲しい気持ちになった。

 女の子たちを山下さんに任せて、俺は受付業務にまわる。なんかもう、しんどいわ。だいたいの仕事は、長谷川君が出来るはずだから、座って休んでいようと思ったら、面倒くさい来客が。二人組の警察官だ。

「ボッタクリや言うて、男性が交番に来てるねん。」
「そんなアホな。」
「アホって誰に言うてんねん。」
「違いますよ。やってませんって。」

 よくよく聞いてみれば、スポーツ新聞に載せた広告を見て来たお客様が、広告より二千円高く請求されたと文句を言ってるらしい。昼と夜では料金が違うから、それを勘違いしてると思うねんけど。警察官も、俺の説明を聞いて理解したようだけど、「はい、そうですか。」と言って立ち去る訳にもいかず、所在無げだ。

 店の受付で、制服の警官ふたりが居たら、お客様がビビってしまうから、とりあえず、三階のオフィスに上がってもらう。本日の三階は「とりあえず」のお祭りや。

「こんな木があったら、私ら着替えられへんやん!」
「いや、これはヤクザが。」
「なんやお前らヤクザと付き合いがあるんか?」
「違いますって。」
「ボッタクリしとるんやろ。」
「オーナー、木なんかいらん。」
「いつでも捕まえられるんやで。」
「アンタは、あっちで着替えたらええやん。」
「うるさいわ、だまれ。」
「だまれって何や?」
「お巡りさんには言うてないわ!」
「こら、サツキちゃん、やめ。」
「明日、署に来てもらうで。」
「勘弁してください。」
「あんたが先に揉め始めたんやろ!」
「揉め事はあかんで、お姉ちゃん。」
「こいつは、もうオバハンや!」
「あんたの方がババアやろ!」
「どっちもババアやん。」
「店長、いま、聞こえたで!」
「明日、署に。」
「うるさい、ポリは黙ってて!」
「なんやと!」

 それぞれが納得しないまま、それでも疲れたから、各々に帰って行った。取り残されたのは、俺と植木鉢たち。植物は静かで、文句も言わないから良いわ。

 さすがに俺の帰りが遅いのを心配したのか、結婚してから初めて、こんな時間にサエコから電話だ。窓の外は、もう明るい。日の光を感じながら、電話に出る。

「ヒロキさん、いま、どこ?」
「ごめん、まだ店やねん。」
わたし、病院に向かってるの。」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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