この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百四話「手紙」

time 2016/03/15

第百四話「手紙」
 ピンサロは、安い部類に入る風俗だから、女の子の受け取れる給料も、当然のことながら安い。その分、仕事内容もソフトだから、ファッションヘルスで働くのには抵抗があるという女の子にとっては、良い仕事だ。とはいえ、かわいい子ならキャバクラの方が稼げる可能性もあるから、これまた難しい。
 
「この子、うちでは本格的すぎるって言うてるねん。」
「初めて風俗で働く子なんですね。」
「そうや。かわいいで。」
「身長が百五十五センチ、小さいですね。」
「声は、デカいけどな。」
 
 佐伯専務が約束通りに、ピチピチグループに応募して来たけど採用しなかった女の子を、かなり頻繁に回してくれている。とにかく名の知れた優良グループだから、女の子の応募は絶えないから、採用率一割という強気な面接をやっている。俺も二年前は、そういう立場だった。
 
 俺が独立を決めて、面接を始めてから、やはりピチピチグループというのは凄かったんだと、改めて実感した。外から見た方が、良く分かることも多い。風俗で働きたいですと自ら進んで言ってきてる女の子のうちの九割を採用しないって、日本全国の風俗店のなかでも珍しいんじゃないだろうか。京都以外の風俗は、あんまり知らんけど。
 
「ピチピチとは、どういう手打ちをしたん?」
「手打ちって、そんなヤクザみたな事ないで。」
「完全に裏切り行為やん、本来は。」
「山下さんも頑張れって、佐伯専務が言ってましたよ。」
「うん、まぁ、がんばるけど。」
 
 山下さんの言いたいことは分かる。そら、そうだ。二人ともピチピチグループに居た人間で、偶然とはいえ、オーナーと店長と言う立場になって、木屋町で店を開いているんだから、本当に不思議なことだと思う。でも、やってみたら、なんか上手いこと関係づくりが出来てん。良かったわ。
 
「田附さん、これ、溜まってるで。」
「なに、これ?」
「京都市から来てる景観の何とかってやつ。」
「ああ、うちの看板が景観を損ねてるって手紙か。」
「そうやん。毎月、来てるで。」
「毎月って、市の役人は、えらい暇やな。」
「もう、十一枚も来てる。無視しててええの?」
 
 京都市役所 都市計画局都市景観部景観政策課という漢字の大行列みたいなところから届く書類には、ピンクデザイアの店の前に掲げられた看板が、歴史ある京都の街並みを乱しているから、ただちに改善処置を取るようにと書かれている。
 
「また、警察が来るんと違うん?」
「こないだ来た時も、看板のことは言わなかったでしょ。」
「まぁ、そやけど。」
 
 山下さんは、シャワー設置で指示処分を受けてから、ちょっと弱気になった。まぁ、あのピチピチホームの会長ですら、警察からの処分には過敏に反応していたから、山下店長がビビるのも当然と言えば当然なんだけど。
 
 細々としたトラブルを含めれば、ほんまに毎日のように何かしらの問題が発生する。足元では女の子の派閥の問題があるし、外部からはヤクザが来るし、警察が来るし、仕事とは直接関係の無いところでも、近隣の飲食店や住人との付き合い上の問題もあるいし、あと、売り上げが上がっているから税金に関する問題もある。思ってたよりも、だいぶ疲れる。
 
「田附、祇園や。来いや。」
「はい、行きます。」
 
 なんやろ。ほんま佐伯専務って、俺が落ち込んでいることを電波か何かで察知してくれているんだろうか。夕方の早い時間だけど、もう俺がいなくても十分に店は回るから、安心して出掛けられる。山下店長、ありがとう。
 
 重い扉を引いて、「こんばんは。」とゆっくりと店内に入ると、すぐに佐伯専務の姿が見えた。すでに宴は始まっているようだ。ピチピチグループの店長たちが集まっている。いつもと同じ面子で、今日も楽しく飲める。仕事ってのは、この瞬間のためにやってるねん。
 
「呼んでいただいて、ありがとうございます。」
「おい、裏切り者、よう来たな!」
「え、あ、か、か、会長!」

芸術・人文人文小説現代小説『この男、猥褻につき』第三章>第百四話

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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