この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百三話「感謝」

time 2016/03/14

第百三話「感謝」
 シャワーを設置してから僅か二日で、警察が来て、すぐに使用を中止するようにと言われた。そのうちバレるかもしれないとは思っていたけど、たった二日ってどういうことやねん。大々的に宣伝をしたわけじゃないから、誰かがチクったんやろうけど、それにしても、あまりにも早すぎる。

「一発で、指示処分をくらいましたよ。」
「お前、ほんまアホやな。」
「シャワーがある方が、気持ちええでしょ。」
「どこのキャバクラに、シャワーが付いてんねん。」
「まぁ、そうですけど。」

 ピンサロは、法律的にはキャバクラや、クラブの延長線上にある。いわゆる、風俗営業第二号営業の許可ってやつ。本来は、女の子が隣について接客する許可しか受けていないから、性的なサービスをすること自体が、かぎりなくグレーというか、正確には違法な行為になる。だから、佐伯専務の言う通り、設備としてはキャバクラの範疇を超えてはいけないんだけど、衛生的なことを考えたら、シャワーがある方が良いと思うんやけどな。

「まぁ、田附社長、落ち着いて。」

「社長って、ただの小さなピンサロ屋ですから。」
「まさかお前が独立して風俗やるとはな。」
「ほんま、すみません。」
「ええやん。金儲けやねんから。」
 
 佐伯専務ほどのひとなら、本当は自分で店をやった方が儲かるはずなのに、どうして今のままの役職を続けているんだろう。そういえば、すでに四年近くの付き合いになるけど、佐伯専務がピチピチグループで働き始めた経緯とか、これまでにやってきたこととか、ほとんど何も聞いたことがない。
 
「専務は、独立しないんですか?」
「はぁ?」
「いや、自分でやろうと思わないんですか?」
「思わんなぁ。」
「そうですか。」
 
 そうそう、店とか仕事のことなら、どんなことでもズバリと回答してくれるんだけど、いざ自分のこととなると、いつもこんな感じで口数が少なくなって、話が終わってしまう。いや、あんまり踏み込んだ話をしようとしたら怖い顔になるから、俺がビビってしまって、その先を聞けないからなんだけど。
 
 話の流れで聞いてみたけど、実際のところ、会長と専務のコンビは最強だから、ずっと一緒にやっている方が、お互いにとって良いのだろう。山下さんと接するときには、あの二人のような関係になれたらと、いつも思っている。なかなか難しいけど。
 
「人を使うのって、難しいですよね。」
「そうやな。」
「思う通りには、動いてくれないですよね。」
「病気や言うて辞めて、独立するやつも、おるしな。」
「そうですね。確かに。」
「確かにって、お前、よう真顔で言えるなぁ。」
 
 もし将来、山下さんが何かしらの理由でピンクデザイアを辞めて、それからしばらく経って、木屋町のどこかに風俗店をオープンさせたと聞いたら、俺は佐伯専務みたいに優しく山下さんと接することが出来るだろうか。細かく言えば業態は違うけど、あくまで同じ業種でライバル関係になるわけだから、めっちゃ怒られても仕方ない状態なのに。
 
「ほんまに佐伯専務には、感謝してます。」
「そうなんや。」
「勝手なことばっかりしてますけど、今後とも、」
「いやもう、固い話は、ええって。」
 
 酒の勢いもあって、佐伯専務に対する感謝の思いが溢れだしてきた。体育会系というよりも、クールでかっこいいタイプの専務には、俺みたいな人間は暑苦しいのかもしれないけど、やっぱり自分の普段から思っていることを、どうしても伝えたい。
 
 ちょっと涙目になりながら、夢中で話し続けている俺を、飽きれながらも相手してくれている佐伯専務、ほんまに良い人やなぁ。もう違う会社になってしまったけど、それでも一生、ずっと付いていきます。今日も、ゲイバーに来るのに誘ってもらえて、めっちゃ嬉しい。
 
「だから、お前、よう真顔で言えるなぁ。」
「本当に普段から思ってることなんで。」
「いや、ママに下を咥えられながらする話ちゃうやろ、田附くん。」 

 
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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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