この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第百話「最後」

time 2016/03/09

第百話「最後」
 ミナミの男に思いっきり殴られて顔面が二倍くらいに腫れている山下さんを表の接客係りにするわけにもいかないので、一週間ほどは俺が受付に立った。とはいえ、アルバイトも増員して、オープニングスタッフの松木君と長谷川君が先頭に立って頑張ってくれてるから、俺はただ「いらっしゃいませ。」と笑顔で言ってるだけで良かったけど。

「オーナー、すみません、アレお願いします。」
「はいはい、上でスタンバイして待ってて。」
「分かりました。」

 三人の女の子が、オフィスに新しく置いたばかりのソファに並んで、股を広げて待っている。俺じゃなきゃ出来ない仕事と言えば、この海綿を取る作業くらいかもしれない。これだけは、熟練の技を必要とするから、アルバイトごときでは真似できない。オーナーの俺、活躍してるな。

「そろそろ、私がエースちゃうの?」
「どうしたん、ジュンコちゃん。」
「私、結構な数をこなしてると思うけど。」
「うん、頑張ってるなぁ。」
「ミヨちゃんよりも、お客さんの数、多ない?」

 

 どうやら、俺からエースだと言われたミヨちゃんが、待機部屋で女の子たちに自慢したらしい。ピチピチホームでは、女の子がそれぞれの部屋で待機していたから、女の子同士の横のつながりは希薄だったけど、ピンサロでは待機部屋を作らざるを得ない。安易に、ミヨちゃんを褒めるような発言をしたことを後悔するけど、もう遅い。

 

「みんなが、うちの店のエースやで。」
「そんなんズルいわ。」
「なんでズルいん?」
「ミヨちゃんは、そう受け取ってないもん。」

 

 ジュンコちゃんは大学院生で、下手に頭が良いから、こういう時には、扱いに困る。大阪組のミナちゃんとも仲が良くて、待機部屋で最も大きな派閥を作っているようだ。もうひとつの派閥のリーダーは、ケイちゃん。見るからにボスみたいな風体で、五人くらいがつるんでいて、一緒に出勤してきて、一緒に帰る。あかん、面倒くさいわ。

 

 この一件について、山下さんに報告したら、「そういうのを上手く利用して、女の子をやる気にさせるのに使ったら良いですよ。」と、なぜか余裕そうな答えだ。言われてみれば確かに、女の子たちがライバル心を剥き出しにして仕事に真剣に取り組んでくれるんなら、店の立場としては、それを利用すれば良いのか。めっちゃ頼もしいやん、山下さん。

 

 でも、この日を境にして、山下さんは誰が見ても明らかなくらい表情が暗くなり、ただでさえ細身の身体が、さらにげっそりと痩せ細っていった。女の子たちが、私は店長派、私はオーナー派と、勝手に自称するようになり、店内が冷戦状態の陰鬱な空気で満たされている中で、店長として中立の立場を貫くために気苦労が絶えないようだ。

 

「ジュンコちゃんのグループ、一斉に切っても良いですか?」
「え?店長派を全員、辞めさすってこと?」
「田附さんまで、そんな店長派みたいな呼び方しないでくださいよ。」
「ああ、ごめん、ごめん。」

 

 もう最後の手段なのだろう。約半年間、女の子の二大派閥の間で、悪戦苦闘してきた山下さんも、いよいよ対応が出来ない状態にまで追い込まれてしまった。この雰囲気に耐えかねて、店を辞めていく女の子も増え始め、常に面接で新しい子を補充しているとはいえ、店の運営上は、健全だとは言えない状況になっている。こんな時、思いがけない人から、電話がかかってきた。

 

「おい、田附か。」
「はい、大変ご無沙汰しております。」
「なんや疲れた声してんな。」
「ちょっとゴタゴタしてまして。」
「今、祇園で飲んでんねんけど、来れるか?」
「え?はい、もちろん。佐伯専務の呼び出しなら、どこへでも!」

 

 山下さんからの提案に対する返答は保留にして、俺は店を出て、祇園に向かった。夏の湿気に満たされた京都の街は、日が暮れても、依然として蒸し暑い。小さなタオルで顔の汗を拭いてからクラブに入ると、ピチピチグループの懐かしい顔ぶれが勢ぞろいだ。佐伯専務ひとりだけだと思い込んでいたから、ちょっと驚いた。

 

「忙しいとこ、呼び出してすまんな。」
「いや、そんなこと無いです。」
「なんやねん、忙しくもないのに、俺に挨拶の連絡も無しか。」
「もう、そんなイジめんといて下さい。」

 

 俺がピンクデザイアを始めたことは、みんなが当然のように知っていて、それでも俺のことを迎え入れて、一緒に飲んでくれる。めっちゃ嬉しい。さすがの佐伯専務は「女の子のことで苦労してるようやったら、うちで落とした女の子を回したるからな。」と、まさに今、うちの店で最も必要になりそうなことを、ズバリと言い当てた。なんやねん、この人は。ほんまに凄いわ。

 

 独立したからには、自分で頑張らなければならないと考え込んでいたけど、俺にもちゃんと仲間がおるやん。まだまだ頑張れるわ。久しぶりに思いっきり酒を飲んで、酔っ払っているのが気持ち良い。もうすぐ閉店だと分かりつつ、ル・シャネルに立ち寄って、勢いよくドンペリを開けた。

 

「ヒロキさん、なんで今日、来てくれたん。」
「サエコに会いたいって思ったからに、決まってるやん。」
「嬉しいわ。わたし、今日で最後やねん。」
「え?なんて?」
「何でもないわ。もっと飲も。もう一本、飲も。」
「どんどん持ってきたってや!ドンペリ行くで!」

 

 俺もベロベロだけど、サエコもベロベロ、ふたりして千鳥足で店を出る。ル・シャネルのボーイが心配そうに見送ってくれる。今日は良い気分だから、もう一軒くらい行ったろうと思うけど、サエコが「はい!はい!」と声を出しながら手を挙げてタクシーを停めて、「もう家に帰ろ。」と言うから、素直に従う。

 

「ヒロキさん!」
「なんやねん、急に大きい声、出すなや。」
「わたし、子供が出来たって!」

 

 まだ僅かな膨らみさえない腹部をさすりながら、サエコが嬉しそうにニコニコしている。一気に酔いが覚めた俺は、思わず「結婚しよ。」と言った。サエコは、お腹に視線を落としたまま、コクリと頷き、「よろしくお願いします、ヒロキさん。」と言った。

 

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あ、アンケートも、よろしくお願いします!

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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