この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第六十二話「初対面」

time 2016/01/19

第六十二話「初対面」
 佐伯店長、いや、佐伯専務と一緒に木屋町を歩いているだけで楽しい気分になる。俺が結婚する前は、毎晩のように飲み歩いていたけど、このところ、たまに店で顔を合わせる程度だったから、この感じが懐かしい。夕暮れの木屋町の美しさを敏感に感じるのも、少し心が浮かれているからだろう。

 でも、向かっている先が、ピチピチホームの会長の待つオフィスだから、正直、かなり緊張している。この木屋町にファッションヘルスを三店も経営している大ボスだ。俺のことを気に入ってもらおうとか大きな目標は立てず、とにかく、粗相のないように失礼のないようにしよう。

「ここの五階や。」

「思ってたより、ボロいビルですね。」
「田附、お前、会長に殺されるぞ。」

 三段だけの小さな階段を上ると、間口の狭いエレベーターがある。脇の看板を見ると、三階から五階まで、ピチピチグループのプレートが入っている。オッサンの咳払いのような低く軋む音を立てて、エレベーターの扉が開く。専務とふたりだけなのに、めっちゃ狭い。そして、めっちゃ遅い。絶対に歩いた方が早いな。

「挨拶だけは、ちゃんとせえよ。」
「はい、分かりました。」

 専務が、わざわざ俺に対して、こんなことを言うのは珍しい。やはり風俗グループの会長だけあって、かなり礼儀作法には厳しい人なんだろう。どんどん緊張感が増してくるんだけど、とにかくエレベーターが遅い。うんうんと呻き声を上げてるから、精一杯がんばってるんだろうけど、まだ三階のランプが点いている。

「会長って、めっちゃ恐ろしい人なんですか?」
「いや、そんなことないで。」
「どんな人なんですか?」
「見てたら分かるわ。頭のええ人や。」

 次の質問をしようとしたとき、エレベーターの扉が開いた。いきなり目の前に黒い大きなソファーが並んでいて、右側の列に三人、左側の手前の方に一人、そして、正面奥のソファーに一人が座っている。左右の四人が立ち上がって、俺の方に向かって「おはようございます。」と頭を下げる。あ、違う、佐伯専務に対してだ。

「会長、おはようございます。」
「おう、佐伯、おはよう。内藤がまだ来てないわ。」
「これ、新しく店長にした田附です。」
「おはようございます!」
「おう、まぁ座れ、座れ。ここ座れ。」

 野太くデカい会長の声に圧倒されながら、専務の後ろをついて行き、左側の列の二番目に腰を下ろす。俺の正面に座っている横山さんとは、夜の飲みの席で何度かあったことがある。ピチピチタウンの店長さんだ。横山さんを含め、みんな笑顔でニコニコと話をしている。めちゃくちゃ怖い会長をイメージしていたから、場の和やかな雰囲気に少し驚いた。いや、そんなことより、会長がめっちゃ若い。俺とそんなに年が変わらんと違うんかな。

「ピチピチホームは、どんな感じや。」
「おい、田附、お前や。」

 静かに座っておけば良いと思って気を抜いていたら、いきなり会長が俺に質問していた。佐伯専務に言われなければ、気づかないところだった。

「はい、平日の集客に力を入れてます。」
「ハルカがおらんようになっても、数字は落ちてないねんな。」
「は、はい。」

 会長の口からハルカの名前が出て、身体が震える。俺がハルカを引退させた張本人だと、会長が知っているのか知らないのかも分からないから、とにかくナンバーワンが抜けた穴を、店全体で盛り上げて、しっかりと埋めていることをアピールしないと。

「ハルカさんの分まで、他の女の子たちが頑張ってくれてまして・・・」
「お前、女を見る目が良いらしいな。」
「たまたまですけど、みんな協力してくれてます。」

 もう全く話が噛み合ってないというか、俺の答えが答えになってないやん。お洒落にスーツを着こなしている若手ビジネスマンという感じの風貌だけど、眼孔が鋭くて、とにかく声がデカい会長の見えない圧に押されて、なにかしら返事を返すのがやっとだ。

「タウンの方は、どうやねん。」
「え、あの・・・」
「おい、田附、お前と違う。」

 横山さんが、店の収支について、具体的な数字を出して説明する。俺の報告とは、雲泥の差だ。会長からの質問にも、的確に答える。うまい。俺たちの後から来た内藤さんも含めて、全員が報告を終えて、店長会議が終了した。

 俺、この集まりが店長会議だと知らずに来たから、今日は仕方ないけど、次からは他の人みたいに、ちゃんと報告が出来るようにせんとアカンわ。あと、初めて知ったけど、うちのグループは、ファッションヘルスの三店舗だけじゃなくて、ピンサロも三つやってるらしい。この会長、めっちゃ凄いやん。

「内藤、このあと何もないな。祇園行くで。」
「あ、はい。」
「佐伯、お前も田附と一緒に来てくれよ。」

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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