この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第五十九話「着信あり」

time 2016/01/14

第五十九話「着信あり」
 シズエとの夫婦生活の惨状とは裏腹に、仕事の方はすこぶる調子が良い。マネージャーの仕事は、すぐに結果が見えないものばかりだけど、新規の客数が確実に増え続けているし、リピート客についても新規に応じて増えている。俺が採用した女の子たちの活躍も顕著で、「女を見る目は、俺より上。」と佐伯店長から太鼓判を押されている。

 女の子たちのテンションも高くて、みんなが店を良くするためにと色んなことを考えてくれていて、風俗店には珍しく、店全体が一丸となってチームプレイで頑張っているような雰囲気が出来てきている。もちろん、その理由のひとつは、絶対女王だったナンバーワンのハルカが店を去り、各々が少なからず危機感を持ったことによる。これは決してシズエには言えないけど。

「田附マネージャー、ほんと辛そうですね。可哀想やわぁ。」
「俺のこと、心配してくれんの?ありがとう。」
「マネージャーがおらんかったら、店がヤバいもん。」
「嬉しいこと言うてくれるなぁ、マリちゃんは。」
「ちゃんとシズエさんに癒してもらわんとねぇ。」

 幸いにも、店の子たちは、俺が辛そうにしている理由を、日々の仕事が忙しすぎるからだと勘違いしてくれている。実際、俺がカバーしている範囲が広すぎて、ゆっくりと座って休む時間さえないくらいだ。でも、俺は仕事が好きだから、これくらい忙しい方が、元気に動き回れて良い。

 俺が採用した新しい女の子たちはもちろん、俺より前から店にいる女の子たちとも、良い関係が築けている。深刻な家族の問題から、彼氏とのいざこざまで、色んなことを俺に相談してくれる。まぁ、他人の相談に乗っている場合ではないんだけど、女の子のケアは、俺の最も重要な仕事のうちのひとつだから、真剣に話を聞いて、真剣に答える。悩みを打ち明けて、爽やかな気分で接客してもらえたら、それが一番だ。

「シズエは元気にしてるか?」
「はい、おかげさまで、めっちゃ元気ですよ。」
「そうか。」
「店長のおかげです。ほんと。」
「で、ホンマは、どうやねん?」
「え?」

 ついつい真実を話しそうになるけど、なんとか踏ん張って、口を閉じる。俺とシズエの交際を許してくれて、結婚の道筋を作ってくれた人だ。無駄な心配は、かけたくない。

「だから、ホンマは、どうやねん。」
「いや、うまくいってますよ。」
「俺に嘘をつくなよ、アホ。」
「え、いや、あの。」

 やっぱり、佐伯店長には隠し事は、出来ないみたいだ。たぶん、俺の浮かない表情を見て、家庭がうまくいってないことに気づいたに違いない。でも、店長には、このまま嘘をつき通したい。いや、無理か。

「実は、あんまり上手くいってないんです。」
「あんまり?」
「あ、いや、全くです。」
「やっぱりか。」
「なんで分かったんですか?俺が嘘をついてるって。」
「さっき、シズエから電話がかかってきてん。」
「え?なんて言うてました?」
「いや、電話に出んかった。着信を見ただけで。」
「え?」
「どうせ悪い用件やろなと思って、出んかった。」
「はぁ。」
「このタイミングで、良い内容の電話はかかって来んやろ。」

 店長は、俺から話を聞いてからシズエに電話をして、うまく関係を取り持ってやろうと言ってくれた。でも、俺が現状をあるがままに話すと、腕を組んだまま俯いて、黙ってしまった。俺に対して「今でも、シズエのことは好きやねんな?」と、一度だけ俺の方を向いて聞いただけで、一時間くらいずっと考え込んでいる。

 俺とは頭の出来が全く違うから、いったい店長が何を考えているのか、俺には分からない。でも、自分が寵愛してきたシズエには幸せになって欲しいと、心から願っている人だ。もしかしたら、俺に対して怒りの感情を持っているかもしれない。とはいえ、俺は部下として、日々の仕事をこなして、一応の結果を出している。だから、俺を怒るのも変な話だ。

「シズエは、お前の仕事が不満やねんなぁ。」
「まぁ、そうですね。」
「田附が、うちを辞めるとかアカンしなぁ。」
「え?嫌ですよ。冗談はやめてください。」
「そうやんなぁ。」

 さすがの佐伯店長でも、うちの問題には、いい答えが出せないらしく、いつになく歯切れが悪い。もしかしたら、この人なら、何かすごい解決法を思いついてくれるのではないかと期待したけど、やっぱり無理なんやわ。さっき、店長に聞かれた質問に「もちろん、今でもメッチャ好きです。」とは答えられなかったし、もう、アカンかもしれん。

 

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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