この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第五十六話「理想」

time 2016/01/11

第五十六話「理想」
 シズエとの新婚生活は、まるで月九のドラマのような温かい愛に溢れている。朝、俺が目を覚ますと、キッチンからは包丁で何かを刻む音が聞こえ、おはようのキスも欠かさない。シズエと結婚して良かったと、毎日のように思っている。

 俺が出掛ける準備をしていると、「今日も、お仕事頑張ってくださいね、ヒロくん。」と、少し悲しそうな表情を浮かべながらも、一家の主である俺を、明るい言葉で送り出してくれる。そう、俺はシズエの旦那として、「お前のために頑張ってくるわ。」と返して、元気よく玄関を出る。近所のオバサンにも「おはようございます。」と挨拶したりして、上機嫌だ。

 こんな風に出勤すれば、当然ながら仕事にも力が入る。新人の講習で、前日に面接を終えたばかりの女の子が、俺の下半身を咥えていても、いつも頭に浮かぶのは、シズエのことだ。朝の「頑張ってくださいね。」という励ましの言葉を思い出しながら、新しい女の子の売り出し方を考える。俺、めっちゃ仕事を頑張るからな。待っててな、シズエ。

「シズエは元気にしてるか?」
「はい、おかげさまで、めっちゃ元気ですよ。」
「そうか。」
「店長のおかげです。ほんと。」

 俺と出会う随分と前から、ずっとシズエのことを可愛がってきた佐伯店長は、相変わらず、彼女のことが心配でならない。幸せなノロケ話をしたら、大体の友達は、顔を歪めながら面倒くさそうに聞くんだけど、佐伯店長に限っては、本当に嬉しそうな笑みを浮かべ、俺とシズエの愛の生活の報告を聞いてくれる。

 仕事中もずっと、すぐにシズエに会いたいと考えているから、タイムカードを押すと真っ直ぐに家へと飛んで帰る。結婚したら夜遊びをやめようと考えたわけでもないけど、自然と身体が家の方へと引っ張られていく。そう、シズエの待つ我が家へと。早く「ただいま。」と言いたい。

「おかえりなさい。今日も、お仕事は大変でしたか?」

 これがいつものシズエの第一声だ。もちろん、おかえりのキスも欠かさずにして、テレビをつけて「今日も、阪神は負けてるねんな。」とプロ野球の途中経過を確認しつつ、女の子から相談を受けたことや、新人の講習をしたことまで、とにかく今日一日の出来事を全て、シズエに報告する。

「ほんま、結婚ってなんやろうな。」
「え?」
「こんな生活、なんか夢みたいやわ。」

 これは決して、口から出まかせで言ってるわけじゃない。本当にそう思う。まるで夢のようだ。夢なら冷めないで、と心から思う。シズエの顔を見ているだけで心が和む。シズエのことを思い出すだけで、仕事にも熱が入る。これが夫婦生活なんだな、実際に体験してみないと分からないものだ。

 最近、店の女の子たちと話している時にも、俺の身体から幸福感がにじみ出ているようで、「田附マネージャー、ほんと幸せそうですね。羨ましいわぁ。」と言われることが多い。ちょっとマズいかもしれない。私生活を職場に持ち込むべきじゃない。でも、幸せだから仕方がない。無理やり抑え込んでも、どうにもならない時もある。

「新しい女の子、どんな子なの?」
「もうええやん、シズエ。」
「教えてよ。」
「仕事の話はやめにして、早くベッドに入ろうや。」

 毎晩のように、ベッドの上でシズエと一戦を交えている。そろそろ飽きても良さそうなものだけど、まだまだ足りない。俺から仕掛けることもあれば、シズエから誘ってくることもある。とにかく、アウンの呼吸で始まる感じ。ほんと理想的な新婚生活や。

 ごめん、ぜんぶ嘘だ。新婚旅行のモルディブから帰ってきて、俺は仕事、シズエは主婦としての日常が始まってスグの頃から、俺が新婚生活に抱いていた理想は音を立てて崩れ去った。どうして、こんなことになってしまったんだろうか。

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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