この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第五十五話「花嫁」

time 2016/01/08

第五十五話「花嫁」
 父親の腕に手をかけ、バージンロードを一歩一歩と俺の方へ向ってくるシズエの姿を見ながら、ついにこの日を迎えたという喜びと、やっと結婚準備の忙しさから解放されるという安堵の気持ち、そして、これからシズエと共に歩んでいく人生への期待感が入り混じる。ベージュの壁と、アーチ状に曲線を描いた太い木目の柱が特徴的な教会に、参列者からの祝福の声と拍手が響き渡る。
 
 あまりに綺麗な花嫁だ。本当に、このまま真っ直ぐ、俺のところに歩いてきてくれるだろうか。いきなりどんでん返しが起こり、赤い絨毯が曲がって、他の男のところに行ってしまうのではないか。この期に及んで、まだ不安を抱かせる程に、ウェディング姿のシズエは美しい。

 シズエの父親が、俺に向かって深々と頭を下げ、俺も同じく頭を下げてから、シズエを俺の元へと引き取る。式が始まる前から涙目だったシズエの父親は、もう今にも号泣しそうな感極まった表情をしている。こんなに素敵なお嬢さんを育てていただいて、ありがとうございます。絶対にシズエを幸せにすると、改めて心に誓う。
 

「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか。」
 
「は、は、はい。誓います。」
 
 アカン、ずっと待ってたから口の中がカラカラで、上手く返事が出来なかった。一生に一度の晴れの舞台で、やらかしてもうたわ。恥ずかしいわ。
 
「はい、誓います。」
 
 なんやねん。シズエは、めっちゃスラスラと言うてるやん。こういうところで、同じようにミスしてくれたら、もっと可愛らしいのになぁ。まぁ、十分に可愛いから、ええけど。
 
 他人の結婚式には参列したことがあったけど、当然ながら自分の結婚式は初体験なので、なんだか映画のなかにいるような気分だ。シズエがこちらを向いて中腰になって頭を低くして、俺が両手でベールを上げて、そして誓いの口づけをする。改めて観客からの拍手喝采。みんなが俺たちを祝福してくれている。
 
 俺の母親や弟、そして、古くからの友人の何人かが、朝の式から参列してくれている。それぞれにちゃんとお礼の言葉を言って、昔話のひとつでもしたいんだけど、係のひとに追い立てられるように次々と予定が行われるので、みんなと個別に話が出来ないのが残念だ。
 
 披露宴パーティの会場は、教会から程近い場所にあるフレンチレストランで、式に参列してくれたカツミのほか、高橋とか、清水とか、佐野も来てくれた。あ、竹井もいる。シズエの友人として、ピチピチホームの女の子も五人ほど来てくれている。そして、もちろん佐伯店長も。
 
「は、は、はい。誓います。」
「ちょっとやめてくださいよ、店長。」
「お前、面白いなぁ。」
「俺も、緊張するんですよ。」
「シズエ、幸せになれよ。」
「本当に、ありがとうございます。」
 
 思えば、俺が新宿歌舞伎町のワンダラーでマイと出会ってから、すでに十年が経った。マイがいなければ、俺はまだ自分に自信が持てず、陰鬱な生活を送っていたかもしれない。大学時代、アキコと付き合えたことも良い思い出だ。あの鉢合わせ事件が、全てを終わらせてしまったけど。ひと晩限りの彼女も、いっぱい居た。そういえば、オカマのママとも、ホテルに二回行ったな。
 
 シズエとも、もしかしたら、ひと晩の関係で終わっていたかもしれないのに、交際が続いて、こうして結婚式を迎えられたんだから不思議なものだ。好きなように遊んで来た分、これからは遊びは程々にして、シズエのために頑張るで。
 
「ヒロくん、何を考えてるの?」
「え、なに?シズエ。」
「なんかニコニコしてたよ、今。」
「そら、俺たちの結婚式やで。嬉しいわ。」
「そっか。わたしも嬉しいわ。」
「これから、ずっとよろしくお願いします。」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。」
 
 その時、いきなり俺の身体が何かに引っ張られた。手や足を掴まれ、何が起こっているのか分からない。聞き覚えのあるカツミの声で「田附、おめでとう!」と耳元で聞こえたかと思った瞬間、俺は天井に向けて放り投げられた。二回ほど飛んでから、やっと胴上げされていることを理解して、両手を広げる。俺、めっちゃ幸せや。
 
 朝からずっとバタバタが続いて、あっという間に全てが終わった。もう一回やらせてもらえたら、上手く出来ると反省することがいつくもあるけど、シズエが満面の笑みを浮かべて喜んでくれている姿を何度も見ることが出来て良かった。
 
 さぁ、ハネムーンのモルディブへ出発だ!

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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