この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第五十三話「山積み」

time 2016/01/06

第五十三話「山積み」
 本当に結婚なんかして大丈夫なんだろうか。いや、これまで散々遊んで来たんだから、もうそろそろ落ち着いて、身を固める方が良い。母方の祖父母に育てられ、たまにオヤジが遊びに連れて行ってくれるという不思議な家庭環境で育ったから、夫婦というものの典型的なパターンを、俺は知らない。
 
 そういえば、俺が結婚するということを母親に連絡するのを忘れていた。本当は、何度か電話をしようと思っていたけど、どうも夫婦とか家族とかいう話題を、母親に対してするのが嫌で、延ばし延ばしになっていた。オカン、結婚式には来てくれるんかな。
 
「もしもし、オカン。ヒロキや。」
「どないしたん?」
「俺な、結婚することにしてん。」
「そうかぁ。」
「結婚式するから来てな。」
「うん、分かった。」
 
 あっという間に、受話器を置く音が聞こえた。今は名古屋市内に住んでいて、アクセサリー販売の会社をやっているから、たぶん忙しい時に電話をしてしまったんだろう。弟が母親の仕事を手伝っているから、結婚すること自体は知っていただろうし、反応がイマイチなのも頷ける。ちゃんと参列してくれたら嬉しいな。
 
 結婚式の参列者に関しては、俺よりもシズエの方が頭を悩ましていて、「わたし、ほんまに友達がおらんから、どうしよ。」というのが最近の口癖だ。いつもは、「友達は少ないけど、ヒロくんがいるから大丈夫。」と、嬉しいことを言ってくれるんだけど、結婚式となると事情が違うみたいだ。
 
 シズエは既に店を引退したから、一日中ずっと家にいて、考えることと言えば結婚式のことばかりなので、余計な悩み事ばかりしてしまうのだろう。だから、俺が帰ってくるのを心から楽しみにしてくれていて、玄関の扉を開けると、跳ねるように飛び出してきて思いっきり抱きついてくれる。結婚式はまだやけど、これ、もう、新婚生活みたいやん。
 
「ヒロくん、どうしよ。」
「なになに?」
「やっぱり、式は止めとこか?」
「え、なんで。」
「友達少ないし、恥ずかしいわ。」
「そんなん気にせんでええよ。」
 
 木屋町でナンバーワンと言われた女が、友達が少ないと言うだけで、恥ずかしいなんて言っているのが、かわいらしい。そういえば、俺たちが初めてまともに話した夜も、「友達おらんねん、私」って、何度も何度も繰り返し言ってたな。
 
「だって、嫌やん。恥ずかしいやん。」
「ほら、あの北山のお洒落なチャーチでやるんやで。」
「あそこ、ほんま素敵。」
「そやろ。」
「あの綺麗な教会で、式をやるなんて信じられへんわ。」
「シズエのウェディングドレス、綺麗やろうなぁ。」
「そうそう、ドレスも見て欲しいねん。」
 
 リビングのテーブルの周りには、結婚式関連の色んなパンフレットが山積みになっていて、テレビ脇の山から二十冊くらいを持ってきたシズエが、「どれが良いと思う?」と、次々とドレスの写真を見せる。もうこの作業、十回くらいした気がするけど、こういうところも、かわいいなぁ。
 
 北山の自然のなかに佇む教会は、女の子なら誰しもが「ここで式を挙げたい。」と思えるような雰囲気の良い教会だ。もちろん、視察に行ったシズエも一発で気に入って、「ここにしよう。」と即決した。俺は、そこを歩くウェディングドレス姿のシズエを想像して、心がときめいた。
 
「あ!ごめん。」
「どうしたん?」
「ご飯作るの、忘れてたわ。」
「ええよ、外に食べに行こ。」
「いいの?そんなに甘やかして。」
「当たり前やん。俺のお嫁さんになる人やで。」
 
 そっとシズエを抱きしめて、何度も口づけをする。仕事中、女の子たちの相談に乗っている時には、自分の考えとは全く違うことでも、女の子たちの気持ちを落ち着けるために話を合わせることがあるけど、シズエと二人でいる時には、本当の自分でいられる。
 
「ほんま、友達おらんけど、大丈夫かな。」
「また始まった!」
「もう私は、真剣やねんで。笑わんといて!」
「笑ってないって。」
「ううん、笑いました。」
「いいえ、笑ってません。」
「ううん、笑いました。」
「いいえ、笑ってません。」
「ううん、笑いました。」
「いいえ、笑ってません。」
「もう、しつこいなぁ、ヒロくんは!」
 
 こんな会話、何が面白いんか分からんけど、めっちゃ楽しいわ。 

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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