この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第四十九話「デート」

time 2015/12/24

第四十九話「デート」
 ハルカの人気は、日増しに高まっているように感じる。出勤日のほとんどが予約で埋まっていて、三週間待ちでも良いからと予約だけして帰っていく客さえいる。マネージャーになって、初めてハルカの給料を見たときには、その金額の大きさに驚いたし、店長がハルカにだけ与えている好待遇にも、驚かされた。

 ハルカは、出勤時間が他の女の子より三十分遅く設定されている。そもそも、予約客ばかりなので、その時間に間に合えば良いのは確かなんだけど、こんな扱いを受けているのはハルカだけだ。先月の末、ハルカが風邪をひいて店を休んだ時には、急に休んだことを怒るどころか、夜勤のマネージャーが風邪薬をアパートまで届けに行った。店長は、度が過ぎると思うほどにハルカを可愛がっている。俺は、とんでもない女と付き合っているんだ。

 俺がアルバイトから突然、社員になった日の晩からだから、ハルカとの交際も既に十か月くらいになる。店では、少し気難しそうな態度を見せるハルカだけど、家にいるときは料理も洗濯もテキパキとこなす普通の優しい女の子だ。俺が読書をしていたらコーヒーを淹れてくれて、邪魔にならないように気遣ってくれているのか、テレビもつけずに、ただ静かに俺の隣に座っていたりする。

「ヒロくん、来週も火曜日休み?」
「そうやで。」
「どこか遊びに行こうよ。」
「どこ行きたいん?」
「どこでも良いよ。デート、デート。」

 こんなハルカを見たら、佐伯店長も驚くだろうな。ウキウキしながら、デートに来ていく服を選んでいる。何かの間違いがなければ、来週はハルカは生理休みになる。当然のことながら、毎月、決まって生理が来るから、ハルカの生理休暇と、俺の休みの日が被る日が必ずある。ハルカは、月に一回のこの日を、いつも心待ちにしている。

 ハルカが朝から嬉しそうに見送ってくれたから、俺も元気に出勤した。ミっちゃんの件を完全に忘れたわけではないけど、今、俺に出来ることを精一杯やるしかないと、無理やり心を改める。俺が浮かない顔をしていたら、周りが不安に思うだろうし、女の子たちの相談にも乗ってあげられない。ひとりの女の子への後悔で、店全体の雰囲気が悪くなったら元も子もない。

 このところ、木屋町の界隈では、ヤクザ絡みのイザコザが頻発している。京都市内の夜の歓楽街を取り仕切っている地場ヤクザの月輪雷蔵会と、日本最大の暴力団である明石組が抗争中らしく、どこの飲み屋に行っても、この話題で盛り上がっている。別に、いきなりヤクザが店の中に踏み込んできて発砲する可能性は限りなくゼロだし、自分の耳で銃声を聞いたこともないんだけど、噂ばかりが耳に入ってくるので、女の子たちの中にも、少なからず不安を感じている子たちがいるはずだ。

 やはり風俗で働いている女の子たちは、精神的に弱い子が多い。今年一月の神戸の大震災の時にも、京都は地震の強い揺れを感じたものの、ほとんど被害はなかったんだけど、テレビで流れる映像などで気持ちが憂鬱になり、どんよりとした空気を身にまとって出勤してくる子が何人かいた。まぁ、実際のところは、社会を揺るがす大きなニュースよりも、自分たちのごく身近で起こる問題、例えば彼氏のこととか、親のこととかの方が、彼女たちに与える影響は大きいけど。

「なんで、風俗で働く女やからって馬鹿にされなアカンの!」
「いつも来てる色黒のオヤジ?」
「ちがうよ、吉竹さんは、めっちゃ良い人。」
「そっか。」
「マネージャー、今晩、飲みに連れて行ってよ。」
「ええよ。」

 クルミちゃんは、たぶん頭の中で、俺との疑似恋愛を楽しんでいて、馴れ馴れしいと言えばそれまでなんだけど、たまに一緒に酒を飲みに行くと、しばらくは穏やかに働いてくれるので、扱いやすい部類の女の子だ。見た目も可愛らしいし、性格も良い。どうせ店の女の子と一緒に行った飲食代は経費で落ちるし、今日はちょっと思いっきり飲むで。

  

※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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