この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第四十八話「最高の」

time 2015/12/23

第四十八話「最高の」
 今日は朝から何だか気が重い。直接の原因はやっぱりミっちゃんのことなんだけど、他にも色んな不安が頭の中を駆け巡って、どうも調子が出ない。俺の右肩に、小さなミっちゃんが立っていて、ずっと耳元で「ちょっと相談が・・・」と言われているような気分だ。
 
 「こんなとき、マイがいたらなぁ。」と、未だにマイのことが頭に浮かぶ。マイがひと言、「大丈夫。」と言ってくれるだけで、俺はきっと元気に仕事に向かえるに違いない。左の肩にはオヤジが居て、力強く「ええねん。」と言ってくれるんだけど、どう考えても「ええねん。」で済まされる状況ではないから、左耳を閉じる。

 うちの店で働いている女の子たちの給料は、週払いになっていて、今日は給料計算を終わらせないと帰れない。気分が滅入っているとか言っている場合ではない。とにかく何か作業をしていれば気が紛れるはずだ。 

 今週のトップは、やっぱりハルカで、四十八万円。これが週給なんだから凄い。それから、ミっちゃんの支払い残も、二十万くらいあるんだけど、取りに来ない気だろうか。彼氏を応援するためにと頑張って働いていたミっちゃんだけど、もし応援の必要がなくなったのなら、今度は自分のために、自分で稼いだ金を使えばいいのに。あかん、他の作業をしてても、ミっちゃんのことが頭から離れへん。

「今日の晩、何を食いに行こ?」
「あ、店長、今日はちょっと・・・」
「なんや?」
「ちょっと落ち込んでて・・・」
「ほな、肉やな!焼肉や!」
 
 俺のミスで女の子がいなくなったことを店長に正直に話したら、「そんなんでイチイチ悩むなよ。」と、軽く流された。それでも気分が晴れず、ぼんやりしている俺を見かねてか、「それやったら、一回、自宅のアパートに電話してみい。」と言った。携帯電話が普及した今、ひとり暮らしと言えども、女の子の自宅の電話を鳴らすのは、風俗業としては御法度だ。それでも俺が一縷の望みに賭けるなら、電話してみるべきだと言う。

「田附、受話器が上がっても、すぐに声を出すなよ。」
「え?あ、はい。」

 従業員の履歴書を束ねたファイルを取り出して、ミっちゃんの電話番号を確認する。受話器を上げて、電話番号をプッシュする。まだ、呼び出し音もなっていないけど、今にも受話器から「田附マネージャー、ちょっと相談が・・・・」と、ミっちゃんの声が聞こえてきそうだ。一回、二回、三回と、呼び出し音が鳴る。四回目の音が少し鳴ったとき、受話器があがるガチャっという音がした。

 俺は思わず、「ミっちゃん!ミっちゃんか!」と受話器に向かって叫びそうになるが、店長のアドバイスに従って、声が溢れ出るのを我慢する。電話は繋がったままなのだろうか。双方が声を発さぬまま、静寂の時間が過ぎる。俺は、店長の目を見て、首を横に振って、受話器を置こうとしたが、店長は手を広げて「もう少し待て」というサインをする。

「おい、ミカか?ミカ、どこにおんねん!」

 いきなり、電話口から男の声がしたので、驚いて受話器を置いた。店長には「お前、何をいきなり電話を切ってんねん。」と半笑いで呆れられたけど、電話口から聞こえてきた内容を伝えると、「アパートにも帰ってないんやん。仕方ないな。」と独り言のように言いながら立ち上がり、「ほら、焼き肉いくぞ。」とオフィスから出て行った。俺も、慌てて店長を追いかける。

 肉を焼きながら、店長が「俺も似たようなこと、何回もやってるわ。」と、今までの自分の失敗談を話してくれた。ほとんど昔話のようなことを話さない人なので、店長が若い時代の話を聞けて楽しかった。ただ、俺が判断を誤ったことで、ミっちゃんを路頭に迷わせることになってしまった。後悔の言葉ばかりが、頭の中を駆け巡る。

「女は、難しいよ。」
「店長でも、そうですか?」
「そらそうや。」
「特に風俗で働いてる子やし。」
「いや、みんな普通の子やで。」
「ピチピチの素人ですもんね!」
「はは、そうや。」
 
 全身をベルサーチで包んだ店長は、見た目もカッコ良いけど、考え方もカッコ良い。目が鋭くて、たまに何を考えているのか分からない時もあるけど、常に物事の本質を見抜いて、問題の解決のためにシンプルに行動する。こういう人になりたいと、ずっと思っている。
 
「よし、田附、ドンペリ行くぞ。」
「はい!」
 
 極上の焼肉で腹を満たしたあとは、いつものお決まりのコースで、あのゲイバーに向かう。あそこのママとは、あの後にももう一回、ホテルに連れ込まれたけど、最近は新しい彼氏が出来たようで、前のように本気で誘われることは無くなった。
 
 いつも通りのショーがあって、ショーが終わると店長が「ドンペリ持ってこい!」と言って、不細工なオカマちゃんたちと乾杯して、やっぱり酒を飲むのが一番だ。俺が落ち込んでいることを気にしてくれているのか、店長はいつもより上機嫌に振る舞って、次々とドンペリを開ける。最高の上司がいて、俺、めっちゃ幸せや。
 
 浴びるように酒を飲んで、家に帰ると、ちょうどハルカが浴室から出てきたところだった。毎晩、店長と一緒に夜の街に出て飲み歩いている俺に、ハルカは文句も言うことなく、笑顔で出迎えてくれる。今日はもう飲み過ぎたから何も食べたくないけど、俺が「小腹が空いてる。」と言ったら、ハルカは何かを作ってくれる。
 
「なんや元気そうやん、ヒロキ。」
「俺は、いつも元気やで。」
「朝は、しょんぼりしてたくせに!」
「そうやったかな。覚えてないわ。」
「あれ、下の方も元気やね。」
 
 ハルカと一緒にベッドに入り、一戦を交えてから、ハルカに包み込まれるように横になって眠る。京都でナンバーワンの美人ヘルス嬢が、俺に尽くしてくれるんやで。最高の彼女がいて、俺、めっちゃ幸せや。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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