この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第四十四話「カマキリ」

time 2015/12/17

第四十四話「カマキリ」

 店長が差し出した事務用チェアに座った奥田という男が、困惑した表情を浮かべる西城のオッサンと向かい合った。

「なんや、奥田。何しに来たんじゃ。」
「何しに来たんじゃって、えらい歓迎ぶりやな。」
「せやから、何しに来たんじゃ、ワレ!」
「佐伯店長に呼ばれたんや。アカンか。」
「アホ。うちの店長がお前みたいな金貸しに用事あるかぁ。」

 どう見てもヤクザが二人、オフィスの真ん中で面と向かって罵り合っているようにしか見えない。奥田という男は、店長の客人のようだけど、西城のオッサンとも面識があるようだ。真緑の上下のスーツを着て、鋭角に吊り上がったサングラスをかけている。めっちゃ派手やん。ど派手なカマキリや。

「おい、西城。俺が奥田さんを呼んだんや。」
「なんでですの?店長。」
「金貸しを、金を借りる以外で呼ぶアホおらんで。」

 いったい何が始まるのか、何が起こっているのか、俺には全く分からない。木屋町ナンバーワンのファッションヘルスの店長と、その部下で元ヤクザのオッサンと、カマキリみたいな金貸し、もう訳わからんわ。

「奥田さん、十万円、取り立てといたで。」
「おお、助かるわ。おおきに。」
「あと、金利の一割もな。」

 店長とカマキリが二人で、次々と話を進めようとする。俺だけがことの成り行きについて行けてない。いや、西城のオッサンもだ。たまらずオッサンが割って入る。

「店長、取り立てって何や。」
「お前から取り立てたやろ、さっき。」
「俺は、もう奥田の借金は完済しとるで。」
「完済?偉そうに言うなよ、どアホ!」

 珍しく店長の口調が荒い。オッサンに対して、まくし立てるように話す。しばらく二人のやりとりを聞いていたら、少しずつ状況が飲み込めて来た。西城のオッサンは元々、奥田さんから五百万円くらいの借金をしていて首が回らなくなっていたところを、理由は分からないけど、佐伯店長が借金を肩代わりしてやって、その上で、社員として雇ってあげたらしい。

「とにかく、俺、もう奥田に借りてる金はないねん!」
「それがなぁ、西城。違うねん。」
「え?」
「お前が女の子から借りてた金、総額で三百万ちょっとあったやろ。あれ全部、俺が返しといたで。」
「え、そんな。」
「でな、その債権を、奥田さんに買うてもらうねん。」

 奥田さんが黒い革のバッグを開けて、一枚の書類を取り出した。店長もバッグを開き、こちらは十枚くらいの書類の束を出した。

「奥田さん、言われた通りに女の子に署名捺印させといたで。」
「さすが佐伯店長、仕事が早いわ。」
「ほな、西城、全部に名前書いてハンコ押せ。」

店長の出した書類は、それぞれの女の子がオッサンに貸した金額と、店長に債権を譲渡することが書かれている。そして、カマキリの出した書類の中央にはデカデカと「三百二十五万五百円也」と印字され、朱印で「奥田金融」の社判が押されている。

「西城、安心しろ。利子は一割や。」
「一割って、トイチやんけ。アホか。奥田!」
「お前、さっきまで二割って言うてたやろうが。聞こえてたで。」

「西城、今月の給料の百万は、奥田さんに直で渡すで。」
「そんなぁ。店長。」
「アホ、親心や。お前に渡したら使ってまうやろ!」
「そうやけど・・・。」

「あと、あの趣味の悪い車も査定に出したで。」
「奥田、お前!」
「百五十万で引き取ったる。悪ないやろ?」

 西城は「堪忍してください。」とか「殺生な。」とかを繰り返し、なんとか逃げ道を見つけようと粘りを見せたが、店長と奥田さんが無言で見つめたまま何も言葉を返さないことで、自分の置かれている状況を理解したのか、店長の指示通りにすべての書類にサインした。

 西城の署名を確認した奥田さんは百万円の札束を三つ、机の上において、そこから五枚を抜き取って財布に入れ、代わりに五千円札を取り出し札束の上に乗せると、「二百九十五万五千円ぴったりや。ほな、まいど。」と言って、オフィスから出て行った。店長は「わざわざ、すみません。」と返したが、オフィスから出て見送ろうとはしない。さっきまで奥田さんが座っていた椅子に座ると、西城に声を掛ける。

「一件落着やな。」
「いや、こんなん無茶苦茶ですわ。」
「なにが無茶苦茶やねん。」
「いや、あの。」
「そや、無茶苦茶で思い出したけどなぁ。」
「え?はい。」
「お前、勝手に女の子に講習してるらしいなぁ。」

 馬券のことから始まって、女の子からの借金の話が終わったと思ったら、もう次だ。店長は、西城のオッサンが女の子の部屋に入って、身体を触ったり、時には性処理までさせていた件について、追及を始めた。

「いや、講習は、講習は・・・」
「そうやな。お前は講習禁止やもんな。」
「は、はい。」
「女の子らが、西城さんに講習させられた言うとんねん。あれ、なんや?」
「えーっと、そのー、」

 ミオリさんやマリさんなど複数の女の子の証言によると、いきなり部屋に入ってきたオッサンは「講習や。」と言いながら、胸や尻を触るのが常らしい。

「俺な、西城が講習をするわけないと思ってんねん。」
「え?あ、はい。」
「俺が禁止してんのに、するわけないよな?」
「はい、そうです。」
「やっぱり、そうやんな。」
「講習なんか知りませんよ。」

 また、理解できない状況になってきた。女の子からの証言は、俺が全部集めてるのに、やっぱり店長は俺のことが信じられないのだろうか。あかん、訳わからん。

 

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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