この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第四十三話「殺生な」

time 2015/12/16

第四十三話「殺生な」

  木曜日と金曜日の二日間、佐伯店長は、店に姿を見せなかった。週末を迎え、いよいよ決戦の時かと思いつつも、西城のオッサンの横暴を止めないどころか、俺が担当業務を逸脱した行為をした馬鹿なやつだと言われたままになっているので、もやもやとした気持ちで、仕事にも身が入らない。  

 一方、西城のオッサンはというと、「店長の顔を立てて、あの場は収めたけどな。」と、俺の顔を見るたびに言い、そして、何の脈略も無く、俺の頭を殴り続ける。どうして、こんなことになってしまうんだろうか。ピチピチホームに入店して三か月、初めて辞めたいと本気で思っている。土曜日は、何事もなく、終わった。

 日曜日、いつもより早い八時に店に来て、店内の全ての清掃を自分ですることにした。アルバイトに任せているトイレ掃除も、自分でする。俺は、生半可な覚悟で、この店に入ったわけじゃないと、夢中で掃除をしながら、自分の心に刻み込む。平田くんが出勤してきたので、女の子の部屋のベッドを動かして、いつもは拭けないところも、綺麗にする。掃除って、すぐに結果が目に見えて分かるから気持ちいい。

 女の子たちの何人が、いつもと違うと気付いてくれるか分からないけど、少しでも気持ちよく働いてもらえたら嬉しい。オフィスに戻ると、西城のオッサンが椅子に座って、競馬新聞とにらめっこしている。いくら熱心に見ても、当たらないものは当たらないと、早く気付いた方が良いのに。

「おい、田附。」
「おはようございます。西城マネージャー。」
「決めた。馬券買うて来てくれ。」

 昨日も今日も、結局、馬券を買いにパシらされる。俺が馬券を買いに行かされていると聞いて佐伯店長は激怒していたけど、俺には西城のオッサンの命令に歯向かう勇気はない。いつも通り、レースとウマの番号が汚い字で書かれた紙切れと、十万円を受け取る。何週間か前、十万円と言われて受け取った束が九万円しかなくて、オッサンに一万円足りなかったと言ったら、「ワレが失くしたんやろ。」と言って誤魔化されたから、目の前で金額を確認する。

 モタモタしていると、またいつ殴られるか分からないので、急いでコートを羽織って、店を出て、白い息を吐きながら木屋町の路地を歩いていると、「おい、田附。」と誰かが俺を呼び止めた。佐伯店長だ。

「どこ行くねん?」
「また、馬券を買いに行かされてるんですよ。」
「ナンボや?」
「え?」
「西城からナンボ渡されたんや?」

 俺がポケットから、西城のオッサンから受け取った十万円と紙切れを取り出すと、店長は、それをひったくるようにムシリ取って、「田附、お前も来い。」と言って、店の方に歩き始めた。こないだのことがあるから、また俺が悪者扱いされるんじゃないかと思いながらも、店長と一緒に店に入っていく。

「おい、西城。西城おるか。」
「はい、店長。ここです。」
「おい、お前、これ何や?」

 店長は、オッサンの目の前に紙切れを放り投げ、十万円を見せながら詰め寄る。一瞬、オッサンが俺を睨み付けたが、店長の方を向き直して、「すみません、アイツに馬券を買いに行かせました。」と、正直に謝った。

「ほな、この十万は、俺が貰っとくで。」
「そんな殺生な。」
「なにが殺生やねん。返済や。」
「はぁ?へ、返済?」
「そうや、お前、マリに借金してたやろ。」
「え、あ、あ、」
「あれ、俺が立て替えて返しといたったから。ちょうど十万円や。」

 馬券のことで怒られたかと思ったら、いきなり女の子から借金している件を店長が話し始めたので、西城のオッサンは頭が混乱してしまっているようだ。口をアグアグと動かしながら、声にならない声を出している。

「おい、西城。」
「はい、はい、店長。」
「俺が立て替えといたったんやで。」
「ありがとうございます。」
「いや、礼なんか要らんねん。」
「あ、あの、少ないですけど二万円。手数料として。」
「はは、二割は多いわ。一万でええよ。」
「いや、お手数をお掛けしましたから。」
「ええって。一割だけで十分や。」

 佐伯店長は、オッサンがポケットから取り出して、目の前に差し出した二万円のうちの一枚だけを受けとる。出した金を引っ込められないオッサンは、何とかもう一枚を手渡そうとする。それを見た店長が、もう一度、「一割だけで十分や。」と大きな声で言いなおした時、オフィスのドアが開いた。

「えらい騒がしいなぁ。」
「ああ、奥田さん。」
「久しぶりやのう。西城。」

憚りながら (宝島社文庫)
後藤 忠政
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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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