この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第四十話「好機」

time 2015/12/11

第四十話「好機」
 やっぱり腹を決めた女というのは、強い。わざわざ講習をする必要なんてないのではないかと思うほど、落ち着いているし、顔も穏やかだ。初めての実技講習ということで、俺の方が緊張してしまっている。自分は客だと言い聞かせて、サービスを受ける。

 面接をしたあとは必ず一度、家に帰さなければならないと、佐伯店長が話していた。風俗の面接に来た女の子が、自分なりに気持ちの整理をして、覚悟を決めてから働き始めるためには、ひと晩寝かせることが大事なんだそうだ。たしかに、ミカちゃんの顔つきは、面接の時よりも晴れやかで、生き生きとしている。

 さすがに「ほな、全部、脱いで。」と言ったら、恥ずかしそうな仕草をする。でも、これがとてもかわいらしい。真っ裸になって、胸と股間を手で隠しながら、「次は何をすれば良いですか?」と、チワワのような素朴でキラキラした目を向けながら聞いてくる。俺も裸になって、一緒にシャワーに入ると、何も言ってないのに、ボディソープを使って素手で俺の身体を洗い始める。めちゃくちゃ丁寧に洗ってくれる。真面目な性格の子なんだろうな。

 シャワーを出ると、今度は丁寧に全身をバスタオルで拭いてくれて、一緒にベッドに寝転がる。「なんで風俗で働いてんの?」と、女の子たちが頻繁にされる質問をぶつけてみると、ミカちゃんは「大学の学費が高くて・・・」と、自分なりに用意してきた嘘を言った。かしこい子なんだな。彼氏の存在は、お客さんの前では口に出してはいけない。

 初めて風俗で働く子だから、あくまで素人レベルのことしか出来ないけど、俺が気持ちよくなるようにと必死で色んなことをしてくれる。次々と忙しなく動くので、「もう少し落ち着いて、ゆっくりでええで。」とアドバイスしたけど、それ以外には特に気になることはなかった。いや、はっきり言うと、めっちゃ気持ちよかった。先生と生徒みたいな感じの設定が、たまらない。少し粘った方が良いのではないかとも思ったけど、耐えきれずに果てた。

「わたし、稼げますかね?」
「がんばったらな。」
「顔はブスだし、胸も無いし・・・」
「そんなん関係ないで。」
「でも、可愛くて、巨乳の方が良いですよね?」
「そんなん二の次やで。」

 俺の頭の中に、ひとりの女性が浮かぶ。九年前、大学受験のために上京した東京で、初めて行った歌舞伎町のファッションヘルス「ワンダラー」で出会ったマイのことだ。彼女も決して美人では無かった。でも、俺のことを全て受け入れてくれて、最高の時間を過ごさせてくれた。俺にとっての理想の風俗嬢は、マイしかいない。だから、ミカちゃんにも、マイのような風俗嬢になって欲しいと、真っ直ぐに目を見ながら話した。

 ピチピチホームには、頻繁に新しい女の子が面接に来る。だから俺は、週に三人のペースで、新しい女の子の講習を繰り返した。そして、全ての女の子に対して、マイのことを繰り返し話した。それから、俺よりも前から店にいる子でも、悩みがある子の相談には積極的に乗ってあげて、内容によっては、マイのことを話した。

「田附さんは優しいなぁ。」
「そんなことないで。」
「西城とは大違いやわ。」
「なんかあったん?」
「誰にも言わんといてくれる?」

 俺よりも半年以上前から、この店で働いているルミさんが、険しい顔をしながら俺に話してくれたところによると、西城のオッサンに八十万円を貸したけど、約束の日を過ぎているのに金を返してくれないらしい。そういえば、ハルカも金を貸せと言われたけど断ったと、何週間か前に話していた。

 西城のオッサンは、俺よりも上のマネージャーなんだけど、店長から講習を禁止されている。実際に見たわけじゃないから本当かどうか分からないけど、オッサンは全身に入れ墨が入っていて、アレには真珠が入れられていて、腹を括って来たはずの女の子が逃げ出したことが二度か三度、あったらしい。それ以来、オッサンの講習は禁止なんだそうだ。

 佐伯店長からは「西城から盗めることは盗めよ。」と言われているんだけど、相も変わらず、話をすれば頭を殴られるし、週末には馬券を買いに何度も場外馬券場に行かされるし、そのくせ、ほとんど何の仕事もしていないし、ただただ邪魔な存在だ。

「田附、その話、他で話すなよ。」
「はい、分かってます。店長。」
「あと、他の女の子にも、それとなく聞いとけ。」
「え、俺からですか?」
「店長の俺が聞いたら、みんな不安がるやろ。」

 ルミさんの借金八十万円の件を俺から聞いた店長の対応は早かった。西城のオッサンには、日頃の疲れが溜まっているだろうからと三日間の特別休暇を与え、俺に対しては、三日間で出来る限りの情報を集めるようにと指示した。過去数か月の間に店を辞めた女の子には、店長が直接、電話をかけて、話を聞いた。

「田附、お前なぁ、」
「はい、店長。」
「チャンス到来やで!」

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湯澤 剛
PHP研究所
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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 

 


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