この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第三十八話「ナンバーワン」

time 2015/12/09

第三十八話「ナンバーワン」
 女の子に本番行為を要求した客と、元ヤクザの風俗店のマネージャーのドタバタ劇を目の当たりにして、俺は正直なところ、客の側に同情した。もちろん本番行為については、風俗店にとって致命傷になりかねないのは分かっているんだけど、冬の高瀬川に放り込まれるなんて、さすがにやりすぎだ。

 まぁ、俺の本心を言うと、昨晩、俺は店のナンバーワンの女の子と本番行為を済ませたばかりなので、いつアチラ側になってもおかしくない。マジで、バレたらヤバい。

 西城のオッサンに関しては、日頃はムカつくオッサンだけど、いざという時には役に立つんだなと、初めて存在意義を感じた。あと、オッサンが男を川に投げ飛ばしたあとに「禊の水を浴びて、反省せえ!」って言ってたんだけど、あれは高瀬川の上流が、禊川(みそぎがわ)と呼ばれていることを知ってて言ったのだろう。ヤクザって、妙なことに詳しくて、ああいう時に決め台詞に使うから面白い。意外と、ただのアホなオッサンではないのかもしれない。

「なんや、おもろいことがあってんなぁ。」
「おもろいって、無茶苦茶ですよ。」
「あのオッサン、おもろいやろ。」
「だから、無茶苦茶ですって。」

 佐伯店長は、西城のオッサンの顛末を、どこかで既に聞いてから店に出勤してきたらしく、その場に居合わせなかったことを悔しがっている。ホンバンを強要されそうになったヨウコさんの部屋に言って話を聞き、アルバイトの平田くんを捕まえては話を聞き、店内だけでは飽き足らず、店外の目撃者から話を聞こうと出掛けていった。

「平田くん、さっきみたいなの良くあんの?」
「僕が来てから三回目くらいですね。」
「まだ一年も経ってないのに、三回もか。」
「そうですねぇ。」

 素人をウリにしているピチピチホームだから、他の店よりも気安く本番を求めてくるような客が来るのかもしれない。これから自分ひとりの時にも、同じようなことが起こるかもしれないから、西城のオッサンみたいに川に放り込まないまでも、すぐに対応ができるよに心積もりが必要だ。

「おい、田附、今晩、飲みに行こか?」
「店長、おかえりなさい。」
「行けるか?」
「今晩ですか?」
「なんや、お前、女でもおんのか?」

 佐伯店長は、隙があるようで、常に何かを考えている。でも、何を考えているのかが、俺には全く分からないから、怖い。常に頭を殴られるよりも、ずっと怖い。「女でもおんのか?」と聞かれて、ハルカのことが頭をよぎり、川へと落ちていく男の姿が頭に浮かぶ。

「いえ、今は、女はいません。」
「そうやんなぁ。」
「は、はい。」

 俺の勤務時間が終わる六時半まで、佐伯店長はオフィスで待っていてくれて、そのまま一緒に店を出る。木屋町でナンバーワンのファッションヘルスを取り仕切る店長と一緒に、横に並んで歩いているだけで、とても嬉しい。

 オヤジが死んでからというもの、自問自答の毎日だった。何かを始めなければならないと思いながらも、自分の決断が正しいのかどうかが分からず、ただ酒を飲みながら、オヤジの思い出に浸っていた。そんな俺の前に今、新しい目標が出来た。まだ、ほとんど何も知らないけど、この人はカッコ良い。佐伯店長のようになりたい。

「近いけど、クルマで行こ。」
「はい。」
「ちょっと前に出すから、待っててな。」

 俺は、めっちゃ女好きだけど、店長の立ち振る舞いを見ていると、惚れてしまいそうだ。ちょっとした気遣いとか、仕草とか、洗練されている大人の男を感じさせる。うちのオヤジも、ダンディで、カッコ良かった。顔も、服装も、決して似ていないけど、俺が好きな男らしさを兼ね備えている。

「ほら、乗って。」
「はい。」
「シート、後ろに下げてな。」
「はい。」
「田附、ゲイバーとか行ったことある?」
「え?」
「ゲイバー行こか。」
「は、はい。」

 いや、男に惚れたと言っても、そういうことじゃないんだけど。俺は、河原町通を走るセルシオの助手席に座りながら、いざという時に備えて、断り文句を考えていた。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 

 


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