この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第三十六話「ハルカさん」

time 2015/12/07

第三十六話「ハルカさん」
 
 社員になれた喜びも当然ながらあったけど、ハルカさんが俺のことを認識していてくれて、しかも、気軽に話しかけてくれたことが嬉しくて、最初はビビりながらだったけど、少しずつエンジンがかかってきて、浴びるように酒を飲んだ。俺の馴染みの店を何軒かハシゴした。

 完全にやってしまった。偶然とは言え、バーで出会って、誘われたとは言え、隣に座って酒を飲んで、酔っぱらった勢いとは言え、部屋に上がり込んで、据え膳くわぬは男の恥とは言え、ハルカを無我夢中で抱いた。これは、アカンやろ。

 ミオリさんを使って俺を試した店長のことだから何があるか分からない。でも、ハルカさんは俺を待ち受けていた様子でもないし、俺もたまたまあの店に入っただけだから、店長の策略とは考えにくい。あと、これは何となくだけど、ハルカさんは、店長から協力しろと言われても、きっと断るだろうとも思った。
 
 店にいるときは、まさにナンバーワンが歩いているといった貫禄さえ感じる雰囲気なんだけど、一緒に隣同士でお酒を飲んでいると、すごくかわいらしい女の子だ。俺が明日から社員になるという話をしたら、満面の笑みを浮かべて、喜んでくれる。ハルカさんも、西城のオッサンのことが嫌いなようで、とにかく我慢して仕事を覚えたら良いよと励ましてくれた。
 
「わたしって、怖いかな。」
「え?」
「良くしてもらえてるのは分かるんやけど・・・」
「はい。」
「なんか、寂しい時もあるわ。」
 
 確かに、店にいるときのハルカさんは怖い。特に、俺のような最末端の人間にとっては、何かハルカさんのご機嫌を損ねるようなことをしたら、それだけで一発でクビだ。社員の山下さんだって、明らかに他の女の子とは違う様子で、ハルカさんには接する。
 
「あんたも、怖いんやろ。」
「そんなこと、ないですよ。」
「じゃあ、友達になってよ、私の。」
「え?」
「友達おらんねん、私。」
 
 酒が進むにつれ、ハルカさんは、自分の身の上を語り始めた。軽い気持ちでピチピチホームで働き始めたら、いつの間にか、木屋町ナンバーワンだと言われるようになったことや、風俗業界で有名になるにつれて、なんとなく自分から友達たちと距離を置くようになったことなどを。
 
「わたしのこと、抱ける?」
「はぁ?」
「無理やろ?」
「変な冗談を言わんといてください。」
「冗談ちゃうよ。抱ける?」
「ほんまに言うてはるんですか?」
「友達やったら、抱いてよ。」
 
 これって、どう考えても断られへんやろ。普段は、めっちゃ強気で、何も怖くないって感じの雰囲気を出している女が、自分の弱いところをさらけ出して、俺が必要やって言ってるんやで。しかも、薄らと目尻に涙を浮かべながら。こんなん断られへんやろ。俺には、無理やわ。まぁ、無理やったから、今、俺の隣にはハルカが寝てるんやけど。
 
「ヒロキ、おはよう。」
「あ、おはよう。起きたんか。」
「コーヒー飲む?」
 
 なんだか完全に恋人同士の朝が始まってしまった。コーヒーを飲んでいたら、トーストが出てきて、「ゆで卵も食べる?」って聞かれ、「テレビでも付けたら?」とリモコンを渡され、とても清々しい理想的な朝だ。そして、時計を見ながらハルカが「ほら、そろそろ準備しないと遅れるわよ。」と急かす。なにこれ、めっちゃ恋人同士やん。
 
「あ、今日は私、遅番やから、これ持ってて。」
「え?カギ?ええの?」
「ヒロキが良かったら、ええよ。」
「じゃあ、持っとくわ。」
 
 いやいや、もうカギを受け取らないなんて選択肢はない。木屋町でナンバーワンのヘルス嬢だとか、俺の働いている店の女の子だとか、そんなことは一切関係なく、ただ一人の女性として、ハルカに惚れてしまった。もちろん、この関係自体が、俺を社員にしてくれた佐伯店長を裏切る行為であることは分かっている。でも、好きなもんは好きやねん。仕方ないやんな。
 
 急に色んなことが起こりすぎて、頭の中が整理できていないけど、今日から、社員としての勤務が始まる。気を引き締めて、頑張ろう。
 

一日がしあわせになる朝ごはん
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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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