この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第三十二話「初日」

time 2015/12/01

第三十二話「初日」

 アルバイト初日。開店時間の三十分前、九時半に店に入り、女の子たちの部屋を掃除する。全部で七つの部屋の掃除を、女の子たちが出勤して来るまでに済ませたい。部屋の中には無駄な装飾はないから、さほど大した仕事ではない。

 営業が始まるとアルバイトは、受付業務と、部屋までの案内を担当する。お客さんが帰ったあとの部屋の中の掃除は、女の子たちがそれぞれ自分たちでやり、ボディソープやイソジン、ティッシュなどの消耗品が少なくなると、インターフォンで連絡が来るので、アルバイトの俺が必要なものを部屋まで持っていく。体液まみれのタオルは、女の子たちが廊下のボックスに入れるので、ある程度の量になったら、裏口まで運ぶのもアルバイトの仕事だ。大体これの繰り返し。

 女の子たちから色んな物を買って来いとパシらされるのは、歌舞伎町の時と同じで、お菓子やジュース、タバコからナプキンまで、あらゆるもののお遣いを頼まれる。遅いと怒られるし、買ってくるものを間違うともっと怒られるので、緊張感のあるお遣いだけど、たまに店の外に出ると、良い気分転換になる。

 俺に仕事を教えてくれるのは、山下さんという丸坊主でヒゲ面の社員さんなんだけど、華奢な身体に、ひと回り大きめのサイズのシャツとズボンを身に着けているので、なんだか不格好だ。声が甲高くて、話し方に落ち着きがないので、たぶん俺より年は下だ。まぁ、上司であることに変わりはないけど。

「田附くん、前にもヘルスで働いてたんやろ?」
「はい、そうです。歌舞伎町で。」
「東京とは、やり方が違うこともあると思うけど、しっかり覚えてな。」
「はい、勉強させてください。」
「店長になりたいって言うたんやろ。」
「え、なんで知ってはるんですか?」
「佐伯さんが嬉しそうに言うとったんや。」
「あ、店長さんって、佐伯さんって言うんですね。」
「そや。まぁ、普段は店長でええけど。」

 アルバイトの面接で、いきなり「店長になりたい」なんて言ったのはマズかったかもしれない。佐伯さんが喜んでくれているから良いのかもしれないけど、他の社員さんにとっては、あんまり面白いことじゃないような気もする。

 時計を見ると、十六時半を回っている。忙しく働いていると、時間が過ぎるのも早い。久しぶりに働いたけど、やっぱり仕事をするのは良いことだ。そろそろ、女の子は遅番のシフトの子たちが出勤してくる頃だ。ピチピチホームには、木屋町でナンバーワンの呼び声が高いハルカさんというヘルス嬢がいて、今日も出勤してくる予定になっている。そろそろ、生のハルカさんが見れる。楽しみだ。

 ファッションヘルスの調査をしている時に、せっかくだからハルカさんを指名しようと頑張ってみたんだけど、ずっと予約がいっぱいで、残念ながらハルカさんのサービスを受けることが出来なかった。広告で、顔や身体は見たことがあるけど、やっぱり実物はまた違うんだろうなと、妄想が膨らむ。

 山下さんが「ハルカさん、おはようございます!」と、普段よりもさらに甲高い声で挨拶をする。ハルカさんのご出勤だ。俺も立ち上がって「おはようございます!」と挨拶をしたけど、ふたり揃って無視された。山下さんは、いつも通りといった様子で平然としているけど、俺は心に小さな傷を負った。ハルカさんの声を聞きたかったのに。

 俺の思い描いていたイメージとは違って、少し残念だったけど、木屋町ナンバーワンと言われているだけあって、ハルカさんは、めちゃくちゃ綺麗な人だった。ハルカさんにインターフォンで呼び出されないかと待っていたけど、時間切れ。タイムカードを押して、帰ろうとする俺に、山下さんがポツリと言った。

「あの人には、気を付けんなアカンで。」
「え?」
「ハルカさん、ちょっと気難しい人やから。」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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