この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第三十一話「面接」

time 2015/11/30

第三十一話「面接」
 テレビ局から芸能プロダクションへと毎日のように果てしなく続く選考過程を経験したのに、なぜだか今日は、とても緊張する。この一ヶ月間で、木屋町のファッションヘルスを全て周り、集められるだけの情報を調べ尽くした結果、ここしかないと選んだのがピチピチホームだ。

 どんな質問をされても答えられる自信がある。営業時間は、午前十時から深夜十二時までで、女の子の交代時間は夕方五時、店の特徴は、なんと言っても、素人の女の子をウリにしていることだ。

 ファッションヘルスと言えば、風俗嬢らしい風俗嬢が、プロの洗練された技を使って、男性を満足させるというのが常識だ。ヤクザの女とか、借金まみれの家の娘とか、何か重い荷物を背負ったような女の子が、男を喜ばせるためだけに磨いた技を披露して接客するのが、風俗というものだ。でも、ピチピチホームは違う。

 それから、ファッションヘルスなのに、女の子の写真を綴じたアルバムを用意していないのも、他店とは大きく違う。普通は、店に入ったら待合室のソファに座り、アルバムを見ながら女の子を指名するんだけど、この店では、女の子の部屋の前まで通されて、実物を見て決める。気に入れば部屋に入るし、気に入らなければ次の部屋の女の子を見るという仕組みだ。

 女の子たちは、出来るだけ多く指名してもらえるように、綺麗に写っている写真をアルバムに入れて欲しいと言うんだけど、あまりに実物とのギャップが大きすぎると、客からのクレームになる。だから、実物を見て選んでもらうというのは、正しいやり方のように思う。客としては、実物を見て選ぶことで、他店にはない興奮を得ることができるし、一石二鳥だ。ただ、客に目の前で断られる女の子にとってはストレスになるから、その辺のケアを十分に出来る店じゃないと、この方式を採用するのは難しそうだけど。

 あと、俺が重視したのは、木屋町の街角にピチピチホームのサンドイッチマンがいないことだ。サンドイッチマンというのは、店の看板で身体を挟んで、手にも店の看板を持って街頭に立っている人のことなんだけど、つい先週まで祇園で豪遊していた俺が、あんな恰好で道端に居たら、いつ顔見知りに遭遇するか分からない。だから、新人アルバイトの担当になるサンドイッチマンの仕事をやらなくていいことも、この店を選んだ大きな理由のひとつだ。

 ピチピチホームは、サンドイッチマンだけじゃなくて、店の前での呼び込みさえしないから、かなり思い切った営業だとは思うけど、店の外で誰かに見られる心配がないのは、俺にとっては良いことだ。 

 そもそも、木屋町の界隈を歩いている人たちだけを対象に、まだ行き先を決め兼ねている客を探すためだけに、サンドイッチマンや呼び込みでアルバイトを一人使うのは、どう考えても効率が悪い。ピチピチホームは、スポーツ新聞の風俗欄や、最近よく見かける風俗専門の雑誌などに大きな広告を出して、集客をしている。きっと、この店の経営者は、かなり頭のキレる人なんだろう。

「ごめんごめん、待たせたなぁ。」
「あ、いいえ。」
「前にもヘルスで働いたことあるんやろ?」
「はい、そうです。」
「なんで、また風俗で働こうと思ったん?」
「自分に向いてると思います。」
「なんで、うちの店を選んだん?」
「木屋町で一番の店だと思ったんで。」
「しばらく続けるつもりかぁ?」
「店長になって、店全体を見れるようになりたいです。」
「そら、ええわ。ほな、頑張ってな。」

 経験者だからか何なのか分からないけど、あっという間に採用が決まった。面接をしてくれたのは、おそらく店長さんなんだけど、四つの質問をしただけで出て行ってしまったので、名前を聞くことも出来なかった。

 「あとは、頼んだで。」と言われた男性スタッフが、従業員名簿を取り出して、名前と連絡先を書くように言う。あと、歌舞伎町でバイトした時と同じく、免許証のコピーを取られた。木屋町のファッションヘルスだから、きっと裏では暴力団と繋がっているし、本籍なんかの情報を知られたら、後で脅される材料に使われるんじゃないかと不安に思ったけど、まぁ仕方がない。

 店からの帰り道、阪急電車に揺られながら俺は、目には見えない何かのラインを踏み越えて、新しい世界へと一歩、足を踏み入れたことを自覚した。もう引き返すことは出来ない。思いっきり前進するのみだ。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。


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