この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二十九話「討ち入り」

time 2015/11/26

第二十九話「討ち入り」
 祇園のお茶屋で芸妓さんを呼んで、舞妓さんにお酌してもらいながら、名のある職人の京料理に舌鼓をうつ。これほどの贅沢な時間が、他にあるだろうか。この楽しみが分かるか分からないかが、粋と無粋の境界線かもしれない。

「今日は、いつにも増して、綺麗やな。」
「おおきに。」
「俺みたいな無職の相手するのは、嫌やろうけど。」
「そんなこと、おへん。」
「無職やのに、芸妓遊びしてるんやで。おかしいやろ?」
「いえいえ、めずらしくもないさかい。」
「え?そうなん?」
「はい、内蔵助さんも、無職の時に、芸妓と遊び呆けてはりましたえ。」
「クラノスケさんって誰や?」
「大石内蔵助さんどす。」
「あの忠臣蔵の大石内蔵助のこと?」
「そうどす。」
「まぁ、たしかに討ち入りの前は浪士で、芸妓にどっぷり嵌ってたらしいけど・・・」
「そうどすえ。」
「でも、あれは、吉良上野介の家に討ち入る大義のために、敵を欺く演技やん。」
「ヒロキさんも、何か大義のために遊んではるんどっしゃろ?」
「そうや、そうや。今晩、お前の家に討ち入りしたろうかと思ってんねん。」
「それは、えらい立派な大義どすなぁ。」

 祇園には、日本最古の劇場と言われる南座があり、歌舞伎などの公演が定期的に行われている。赤穂浪士の討入りを描いた『仮名手本忠臣蔵』は、江戸時代から演じられている人気の演目で、七段目の「祇園一力茶屋の場」では、大石内蔵助が祇園のお茶屋で芸妓や舞妓と戯れながら、仇討ちの本心を覚られないように立ち回る姿が演じられる。朝晩の寒さが厳しくなってきたので、そろそろ南座は、吉例顔見世興行の季節だ。

 「大義のために遊んではるんどっしゃろ?」という言葉を聞いて、笑顔のまま冗談で返したものの、内心では、何かを始めたいという衝動が湧き上がった。 オヤジの遺産には十分に余裕があるので、まだ同じような生活を半年か一年くらい続けても底をつくことはなさそうだけど、こんな世捨て人のような暮らしにも少し飽きてきたし、そろそろ何か自分に合った仕事を始めるべき時期であるようにも感じている。

 インターンを含めて一年半の芸能プロダクションのマネージャー業も、決して自分に向いていない仕事ではなかった。正式に社員になってからは、大物バンドの担当になって、レコーディングの現場に立ち会ったり、新曲のプロモーションのためのテレビ番組出演にも同行した。バンドのボーカルは、ベテランにも関わらず全く自分たちの曲の歌詞を覚えない人で、大きな紙に歌詞を書かされ、演奏中、ボーカルが見やすい位置に移動しながら、ずっと紙を掲げ続けた。本番終了後、「田附、お前、立つ場所が悪いから歌詞が見えにくいよ。」なんて怒られたのも懐かしい。

 そういえば、俺が初めて行った音楽番組には、あの大人気の男性七人組アイドルグループも出演していて、ジュンコに呼ばれて行った渋谷の飲み会のことを思い出したりもした。 

 マネージャーとしての生活は、時間に追われる毎日で、次から次へと発生する種類の異なる仕事に忙殺され、心身ともに疲れが抜けない日々だったけど、表舞台で活躍する人たちのために、裏方として一生懸命に動き回り、ありとあらゆるケアを行うという仕事には、やり甲斐を感じていた。大変な仕事の割に、給料が安すぎるという点を除いては、心から楽しいと思える仕事だった。

 精一杯に頑張っていた頃の自分を思い出すと、身体がうずく。何か夢中になれることがしたい。学生の頃なら、それはラグビーであり、へヴィメタルだったけど、やっぱり今の俺には、好きな仕事に全力で打ち込むこと以外に、夢中になれることはなさそうだ。どうなるか分からないけど、なにかアクションを起こさないことには始まらない。よし、腹は決まった。今日は、俺の記念すべき日になるかもしれない。

「とりあえず、木屋町のファッションヘルスへ討ち入りじゃ!」

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 

 


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