この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第九話「バラの花束」

time 2015/10/29

第九話「バラの花束」
 彼女が来たら、第一声は何と言えば良いのだろうか。カッコつける必要はないから、俺らしく自然体で良いんだと言い聞かせてみても、その自然体というものが何なのかさえ分からなくなってくる。早く来て欲しいという気持ちが半分と、まだ来て欲しくないという気持ちが半分、心のなかでせめぎ合っている。
 
 仕事場では何度も顔を合わせている彼女だけど、こうやって外で会うのは初めてだから、彼女にどのように接したら良いものか分からない。俺の方から誘ったのに、緊張のあまり、誘ったこと自体を後悔しているような始末だ。
 
「お待たせしました!」と、彼女の第一声は、明るい。
「いや、ちょうど今、来たとこやで。」と、嘘をつく俺。
「こうやって外で会うのは初めてだね。」
「そうそう、初めてやな。俺も今、同じことを考えてた。」
「ヒロくん、今日は誘ってくれて、ありがとう。」
「こちらこそ、ありがとな。マイ。」
 これまでの二年半、俺とマイは、決して店の外で会うことはなかった。ただ、今日は特別な日だ。マイは既にワンダラーを辞めている。そして、来年の春には、結婚するそうだ。いわゆる寿退社。とてもおめでたいことなんだけど、それはつまり今日が、マイと会える最後の日ということになる。とても嬉しい。けど、とても寂しい。そんな日だ。
 マイに彼氏がいることは、前から聞いていた。あまり自分のことは話さないし、俺もわざわざマイのプライベートについて聞いたりしなかったけど、「本当は風俗では絶対にダメなことだけど、ヒロくんだから言うね。」と前置きして、彼氏の話をすることが何度かあった。俺とマイとの間には隠し事はなかったし、いつでも素直に、相手の幸せを喜ぶ気持ちがあった。だから、マイが結婚すると聞いて、俺は心の底から嬉しかった。ワンダラーを辞めて、新しい生活を始めるマイを、心の底から祝福している。マイが俺の恋愛の相談に乗ってくれたようには、俺は上手いアドバイスはしてあげられないけど、それでも、「マイなら大丈夫。」とだけは、自信を持って言える。こんなに心の優しい女の子に会ったことがない。うん、マイなら大丈夫。
 俺の恋愛の方も、マイのおかげで順調だ。ミスタードーナツのアキコちゃんと交際中で、たまに喧嘩もするけど、基本的には仲が良い。あまりに綺麗な女の子と付き合えてしまって、最初のうちはドギマギしたけど、マイにアドバイスを貰いながら、徐々に素の自分を出せるようになった。これから先、なにか問題が起こったとき、自分だけで解決ができるかどうか不安だ。でも、俺は絶対に「マイがいないと不安だ。」とか、「マイがいないと寂しい。」とか、そんなことは口が裂けても言わないと心に誓っていた。
 マイが風俗で働くことになった事情は知らない。でも、愉快で楽しい事情で風俗嬢になる女の子なんていないだろう。だから、マイが結婚という幸せを掴んで、風俗で働かなくても良い状態になったことは、とても嬉しいことなんだ。
「ヒロくん、初めてワンダラーに来たときのこと、覚えてる。」
「もちろん、めちゃくちゃハッキリ覚えてるよ。」
「どうして私のこと、指名してくれたの?」
「俺な、なんでか分からんけど、人を見たら、その人が良い人か悪い人か分かるねん。」
「で、わたしは良い人そうだったの?」
「そうや。あそこで、ひとりだけ輝いて見えたわ。」
「もしかしたら、わたし、すごく悪い女かもよ。」
「そんなわけないやん。」
「うふふ。ヒロくんは、まだまだ修行が足りないなぁ。」
 マイとの最初で最後の晩餐が終わり、駅まで向かう途中、フラワーショップで昼間のうちに注文しておいた花束を受け取り、マイに手渡した。もしかしたら、このまま彼氏の待つアパートに帰るかもしれないから、メッセージカードなど余計なものは何も付けなかった。ただただ赤い、真っ赤なバラの花束を持って、マイは一度も振り返ることなく、新宿の街へと消えていった。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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