この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第七話「大丈夫。」

time 2015/10/27

第七話「大丈夫。」
「アキコちゃんって、めっちゃ綺麗やねん。」
「思い切って告白したら、どう?」
「絶対に彼氏おるわ。おらんかっても俺なんか無理やわ。」
「いないかもしれないでしょ。」
「そら、そうやけど。」
「ヒロくん、話がおもしろいし、優しいし、大丈夫だってば。」
「そんなん言うてくれるの、マイだけやで。」
 そう、俺は今でも週に一度は、ファッションヘルス『ワンダラー』に通っている。

 二人の関係は、相変わらず客と風俗嬢、店の外で会ったり、食事を共にすることはない。それでも、俺にとってマイは掛け替えのない存在になっていた。日常生活の中で、面白いことがあったとき、この話を誰にしようかと、まず最初に頭に思い浮かぶのはマイの笑顔だった。

 渋谷を歩いていたら二年ぶりに高校の同級生の水田と偶然に出会って酒を飲みに行ったこととか、普通免許を取ったらオヤジが三百万円をスグに送金してくれたこととか、メタル専門のライブハウスが新しく出来たとか、横浜の洋食屋のオムライスが美味しいとか、彼女が出来たとか、別れたとか、とにかく全てのことをマイに話した。
 
 俺にとっての歌舞伎町『ワンダラー』は、ファッションヘルスではなく、マイと密会する場所になっていた。ただ二人で裸になって抱き合って、話をするだけで済ますときも多かった。本当に色んなことを報告したいから、基本コースの四十分じゃ物足りないので、ダブルと呼ばれる八十分コースにするのが常だ。マイを指名して予約を入れ、マイがいる日にだけワンダラーには足を運んだ。

 マイには、俺に起こった全てのことを話したけど、マイの存在を友人たちに話すことは無かった。マイは俺の全てを理解してくれるけど、マイと俺の関係を理解してくれる友人はいなさそうだ。そもそも、決して単なる風俗嬢のひとりではないマイの存在を、どのように説明すれば良いものか。うまい言葉が見つからない。
 

 大学に入って初めて交際した女の子のことも、最初に報告したのはマイだった。いや、マイが俺を勇気づけてくれたから、俺は告白することができ、交際を実らせることができた。「ヒロくん、話がおもしろいし、優しいし、大丈夫だってば。」というのが、マイが俺を勇気づけるときの常套文句だった。

 女の子と付き合いたいという思いは誰にも負けない。でも、どうしても自信が持てなくて、好きな女の子に声をかけられない。本当は別の子が好きだけど、自分とは不釣合いだと思うと告白する勇気が持てず、自分の身の丈にあった女の子と交際して、やっぱり満足できないから別れるというのを何度か繰り返した。ブスだけど性格が良いなんて言葉で、自分を説得したくない。もっともっと可愛い子、綺麗な子と付き合いたい。
 
 こんな俺のわがままな気持ちも、マイには正直に話した。身体だけでなく、心のなかも全て丸裸にして、自分の全てをマイには晒すことができる。こんなことをマイに言ったら、きっと怒るだろうけど、俺にとってマイは母親のような存在なのかもしれない。

 だから俺は、母性を求めて、ここに通い続けているのかもしれない。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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