この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二十四話「デビュー」

time 2015/11/19

第二十四話「デビュー」
 年が明けて、正月は京都で過ごした。家族三人で、初詣は伏見稲荷大社に行き、おせちはオヤジが祇園の料亭でこしらえてもらったものを食べた。今年から、いよいよ社会人としての生活がスタートする俺は、身の引き締まる思いで、三が日を堪能した。

  本来であれば、卒業論文を書き終え、就職先が決まり、卒業式を待つばかりの大学生たちは、最後の自由な生活を満喫すべく、遊び呆けるのが常だけど、大学入学から四年間を遊んで過ごした俺は、今さら自由な生活と言われてもピンと来ない。内定を貰った芸能プロダクションから、社員になる前のインターンとしてなら一月から働いても良いとの許しを得て、すぐに働き始めることにした。

 いわゆる“業界人”の仲間入りをして、楽しい日々が始まった。毎日のようにブラウン管を賑わしている芸能人たちが、平然と近くのソファーで食事していたり、「トイレはどこですか?」と話しかけてきたりする。最初は、いちいち芸能人を見て驚いたけど、二週間も経たないうちに慣れた。当然のことだけど、芸能人も普通の人間なんだと思った。一般人と同じく、食事をするし、トイレにも行く。

 
 そんな普通の人間をサポートして、芸能人として輝かせるのが芸能プロダクションの仕事だ。うちのプロダクションには、歌手や俳優、女優らが数多く所属していて、それぞれに担当マネージャーが付けられる。大物歌手や、売れっ子俳優・女優にはチーフマネージャーのほか、数名のマネージャーが付いて、スケジュール管理から楽屋入り、稽古場への差し入れまで、大小さまざまな仕事を分担しながら行う。
 
 新入社員見習いの俺は、色んなマネージャーたちと一緒に現場に行き、周りで交わされる会話を盗み聞きして業界用語を覚えつつ、水やジュースやタバコの買い出しに行ったり、資料の整理をしたりと、歌舞伎町でアルバイトをしていた時と大差のない仕事をしている。所属タレントたちが稼ぐことによって会社が成り立っているという意味でも、芸能プロダクションとファッションヘルスには、大差がないのかもしれない。
 
 何人ものマネージャーの仕事のやり方を順繰りに見ていると、同じマネージャーという職業であっても、全く同じスタイルの人は存在しないと言っても過言ではないほど、それぞれに個性がある仕事をしていることに気付く。ディレクターなどの制作陣と仲良くして、多少の演出には口を出すようなタイプもいれば、タレントと友達のような関係を築いて、現場でのテンションを維持することに注力しているタイプもいる。名前だけは知っているけど会ったことがないので、何をしているのかさえ分からないような、現場には一切顔を出さないマネージャーも、何人かいる。
 
 インターンを始めてから二カ月が過ぎ、徐々に仕事にも慣れ、誰かに頼まれる前に自分の判断で買い出しに行ったり、台本を用意したりできるようになってきた。耳慣れなくて戸惑った業界用語も、自分からは発することはなくても、周りで話しているのを聞けば、理解できるようになってきた。動きが良くなれば、その分だけ、自分に仕事の機会が回ってくる。朝から舞台の稽古場に行って買い出しを手伝い、昼前にはテレビ局まで差し入れの菓子折りを持って行き、午後になると生放送の準備に入るタレントをラジオ局で待ち受け、夜には音楽スタジオで歌手の身の回りの世話をして、こんな風に一日一日が過ぎていく。
 
 うちに帰っても、ただベッドで眠るだけの生活だけど、とても充実している。とにかく眠いけど、頭が興奮しているから、なかなか寝付けない。そういえば、さっきから留守番電話のランプが点滅している。でも、もう疲れた。動きたくない。
 
 とりあえず、寝よう。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。
 


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