この男、猥褻につき

夜の連続ブログ小説(ほぼ完全ノンフィクション)

第二十三話「赤坂にて」

time 2015/11/18

第二十三話「赤坂にて」
 営団地下鉄千代田線の赤坂駅から、一ツ木通りに向かって地上に出て、面接会場へと向かう。ここに初めて来た時には、リクルートスーツに身を固めた男女が群れを成していて、この中から、たった三十人しか選ばれないのかと思うと、決して自分にはチャンスがなさそうだと諦めの気持ちしかなかったけど、このテレビ局の本社社屋に来るのも既に五回目、役員面接まで辿り着いた。
 
 昔から慣れ親しんだ筆記体の社名ロゴを捨て、宇宙をモチーフにしたサーカス団のような新しいロゴに変えたばかりのこのテレビ局は、既に建設が始まっている新社屋が三年後には完成の予定で、これまでのお堅い役所的で職人肌というイメージからの脱却を図ろうとしているように見える。このタイミングだからこそ、俺のような人材が必要なんだと信じて、一次から三次までの集団面接に挑んできた。

 考えてみれば、伝言ダイヤルの僅か三十秒間の一方的な音声だけの自己紹介で技術を磨き上げた俺にとって、相手と面と向かって対峙して自分を売り込むことは、さほど難しいことではなかった。面接官の質問の意図を十分に汲み取り、面接官が想定しているよりも少しだけ気の利いた答えをするように心掛け、横一列に並んで一緒に面接を受けている学生たちをライバル視することなく、みんなで協力して他の組よりも目立つように頑張ろうと盛り上げるのが、俺のやり方だ。
 

 ただ、役員面接まで来ると、あのリクルートスーツの群れの中から選りすぐられた逸材たちと比べられることになるので、これまでの自分のやり方が通じるのか、正直に言って、ただただ不安だ。でも、そんなとき、俺の頭のなかでは「大丈夫。」とマイが囁き、「ええねん。」とオヤジが呟く。ついでに、「サイテイ。」という言葉も聞こえてくるが、これは無視する。「誰だれ?」とか、「とにかく走れ!」とか、余計なのも出てきて、頭のなかが混乱してきた。
 
「田附くん、最後に何か言いたいことはありますか?」
「はい!先ほども言いましたが、私は、アメリカでの留学生活の際、本場のエンターテインメントに、心を揺さぶられました。番組を見てくださる全ての視聴者の方々が心から笑顔になれる映像作りを、皆さんと一緒にやりたいです。よろしくお願いいたします。」
 
 かなり緊張したけど、自分が伝えたいことは十分に伝えることが出来た。役員の方からも質問をいくつかされ、しっかりと答えることが出来た。きっと、このテレビ局には、俺のような人材が必要なはずだ。確かな手ごたえを感じながら、本館の玄関を出ようとしたとき、さっき面接で俺の真正面に座っていた社員さんが、俺を呼び止めた。
 
「田附裕樹くんだったよね?」
「はい、そうです。」
「面接、お疲れさま。」
「はい、ありがとうございます!」
「何度も何度も呼び出されて、疲れるよね。」
「はい。あ、いや、いいえ。」

「ほかのテレビ局も受けてるんだよね。」
「いいえ、こちらだけです。」

 しばらく立ち話をしていたけど、この後の予定がないことを確認され、二人で局内の喫茶店に移動することになった。社員さんは、俺の履歴書の内容が全て頭のなかに入っている様子で、履歴書よりも深い答えを俺に求めた。松山の観光名所や、ビリヤード、競馬など、とりとめのない話ばかりだけど、これは面接の延長だと思った俺は、ひとつひとつの質問に丁寧に答えた。競馬には一切興味のない人だったけど、「君の話を聞いて、一度、競馬場に行ってみたくなったよ。」と言われ、身震いがするほど嬉しかった。

 これは内定確実だと思い、勝手に心の中で浮かれていたら、社員さんが黒革の手帳の中から白い封筒を取り出し、そっと俺に手渡して、「私からの推薦状を書いてあげたから、芸能プロダクションに行きなさい。」と言う。テレビ局の社員になるという妄想が膨らんでいたから、その夢がついえたことに動揺を隠せない。

「テレビ局の社員って、意外とつまらないんだよ。」
「え?」
「番組作りを管理するのが仕事だから。」
「そうなんですか。」
「ディレクターじゃなくて、プロデューサーの仕事を求められる。」
「なるほど。」
「きっと、君のような人は、もっと現場にいた方が良いと思うんだ。」
「は、はぁ。」
「芸能プロダクションは、常に現場だから、きっと楽しいよ。」

 千代田線に揺られながら、見てはいけないと言われた封筒の中身が気になって開けてみると、達筆な文字で推薦状と書かれた紙が一枚だけ入っている。本文はとても簡易な文章で、「以上の理由から、田附裕樹くんを、御社に推薦いたします。」と締められている。そして、その下には、先ほどの社員さんの肩書と名前が書かれており、判子が押されているんだけど、その肩書があまりに上の役職であることに驚いた。

 こうして、 テレビ局の偉い人の推薦状を携えた俺は、大手芸能プロダクションの選考過程に途中から横入りし、そのまま集団面接などを受けて、内定通知を受け取った。

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※この物語は、主人公の回想に基づき、だいたい8割くらい真実のフィクションであり、実在の人物とは一切関係ありません!とは言い切れません。

※夜の連続ブログ小説ということで、毎週月曜日から金曜日の夜8時(日本時間)に、最新話をアップいたします。毎晩読んでいただくのもよし、ある程度まとめて読んでいただくもよし、ご自由にお楽しみください。 

 


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